「はいたいコラム」 遠くてラッキーな地域づくり


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 島んちゅのみなさん、はいたい~!世の中なんだかインバウンドインバウンドですね~。訪日外国人の数はこの10年余りで3倍になり、2015年(10月末)は1631万人に上りました。増加を喜ぶことに異論はありませんが、外から人に持続して来てもらう魅力を地域はどう考えていけばよいのでしょう?

 農水省では今、「食と観光との連携による地域食材魅力発信事業」として全国セミナーを展開しています。国際ソムリエ協会会長の田崎真也さんを講師にわたしもモデレーターとして全国4カ所を巡回し、先日は大阪でした。
 石川県金沢市と和歌山県那智勝浦町の報告のあと、会場の50人に尋ねたところ、ほぼ全員が金沢へ行ったことがあるのに対し、那智勝浦へ行った人は半分ほどでした。紀伊半島の南端にある那智勝浦は、大阪から特急で4時間半。一方、金沢までは2時間40分。確かに時間はかかります。ところで、遠いことはデメリットだけでしょうか?
 今年3月、北陸新幹線が開通し、東京から近くなった金沢市観光協会の方は、「正直ここまで人が押し寄せて来るとは思わなかった」と語りました。嬉しい半面、金沢には人に言えない悩みがありました。2016年3月、北海道新幹線が開通すれば、新幹線需要はこぞって函館へ流れるとも考えられるからです。歴史、伝統文化、北陸の海の幸や食文化、人もうらやむ金沢には、近くて便利になったゆえの悩みがあるのでした。
 田崎さんが店づくりについてこんな話をされました。
「『おいしかった』と言ったお客さんはもう来ません。次のおいしい店を求めているから。『楽しかった』と言ったお客さんはまた来ます。楽しさは他に代え難いから」。楽しみを分かち合える関係が築ければ、お客さんはサポーターに、リピーターになるのですね。お店づくりも、地域づくりも、受け止めるのは人の心です。
 那智勝浦にも日本有数の生マグロ漁港や熊野古道など魅力は人一倍あるのです。遠いゆえに生じる宿泊もメリットに他なりません。文化も経済も昔から栄えたのは宿場町です。
 「近くて便利」はとって代わられますが、「遠くてラッキー」は真似されません。沖縄ってほんとラッキーですね。日帰りや素通りの心配はまずないですものね。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)
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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。