「はいたいコラム」 郷土料理名人は町の人間国宝


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 島んちゅのみなさん、はいたい~!沖縄のぶくぶく茶にそっくりな泡立つお茶!バタバタ茶をなんと北陸、富山で体験してきました。黒茶という発酵茶を、専用のお茶碗と茶筅(せん)でバタバタと泡立て、囲炉裏を囲んで一服する500年以上続くお茶文化です。訪ねたのは、富山県朝日町の農事組合法人「食彩あさひ」。真っ白な雪景色の中に立つ農産物加工施設です。漬け物や味噌(みそ)づくり、料理の得意な農家のお母さん方が集まって2004年に設立しました。

 お昼は、名物のタラ汁や山菜の天ぷら、煮しめなど食べきれないほどの郷土料理に大感激。普段でもおむすびランチとして、つやつやコシヒカリのおむすび2つにお味噌汁、山菜の天ぷら、煮物、漬け物、デザートまで付けて、なんと税込500円で提供しているそうです。ええー、ちょっと、すべて地場産で、バタバタ茶体験まで付いて500円は安過ぎますー!わたしは叫びました。農家の手仕事は文化です。安さを売りにしてはいけません。買う側の私たちも、敬意を表して適正価格を払わなくては。な~んて考えていると、代表の弓野良子さん(71歳)はおっしゃいました。「地元の人にも気軽に食べにきてもらいたいから自分たちでも払える価格にしたい。せっかく来てくれるのが嬉(うれ)しいからついおかずが増えてしまう」と。
 平均年齢75歳。食彩あさひのパンフレットにあったのは、「家族のことを思うようにみなさんのことを考え、心をこめてひとつひとつ丁寧に作りました。食べた人が笑顔になるようなふるさとの味です」という言葉。田舎のおばあちゃんが子や孫にお腹いっぱい食べさせたい気持ちで、そこでタイムカードを押して仕事することを生き甲斐とし、味噌名人、おはぎ名人、バタバタ茶名人などみんなの得意分野を発揮する場として工房はあったのです。愉しむ者には叶わない。お母さん達は与えることを愉(たの)しんでいたのです。その誇りは尊重したい、しかし活動を持続可能にするためにどうすれば利益を出せるのでしょう。バタバタ茶、赤いサヤインゲン、金糸瓜の粕漬け、タラ汁、アザミの煮しめ。地域の宝は郷土料理というよりも、それを作る人です。名人達を町の人間国宝として外部からサポートする仕組みがほしいと思いました。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)
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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。