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朝ロ首脳会談「沖縄負担強化」に警戒を<佐藤優のウチナー評論>


朝ロ首脳会談「沖縄負担強化」に警戒を<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記(今回の訪ロでは、朝鮮民主主義人民共和国国務委員長の肩書が用いられている。党代表ではなく、国家指導者としてロシアを訪問していることを強調したいからだ)が13日に訪問中のロシア・アムール州のヴォストーチュヌィ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。1時間程度の全体会合の後、金正恩氏とプーチン氏のテ・タ・テ(1対1、もちろん通訳は入る)の会談が行われた。

 会談の具体的内容については、ほとんど表に出ていないが、両首脳の信頼関係はかなり深まったようだ。

 <「さい先が良かった。非常に生産的だ。地域情勢や2国間関係について、非常に率直な意見交換が行われた」と、プーチン氏は「ロシア1」テレビで放送された番組で語った。/プーチン大統領は、ロシアと朝鮮民主主義人民共和国の関係は、北朝鮮が外界から自国を閉ざしていたパンデミックの際に試練に立たされたと評価した。/「しかし、我々には多くの興味深いプロジェクトがある」と大統領は付け加えた。/13日のロシア大統領と北朝鮮指導者の会談は4時間以上に及んだ>(13日、ロシア紙「イズヴェスチヤ」電子版。ロシア語から筆者が訳した)。

 北朝鮮側の報道からも、この会談を成功と評価していることが伝わってくる。

 <金正恩国務委員長は、朝露関係を最も重大視し、根深い友好の伝統を変わることなく発展させようとするのはわが共和国政府の一貫した立場であると述べ、今回の訪問が両国間の協力関係を新たな高さに引き上げる意義深い契機になるとの確信を表明した。/最高首脳たちは、両国間の高位級往来をはじめ各分野での多面的な交流・協力を深化させて友好・団結と協力関係を一層強固にし、相互信頼を増進させることについて論議した>(14日「朝鮮中央通信」日本語版)。

 13日の首脳会談で、金正恩氏はプーチン氏を北朝鮮に招待し、プーチン氏もそれを受け入れた。今後、首脳レベルで朝ロの交流が緊密になるとみられる。

 <会談では、互いに関心を寄せる重要問題に対する幅広くて深みのある意見交換が行われ、共同の努力で両国人民の福利を図り、総合的かつ建設的な双務関係を引き続き拡大していくことで合意した>(前掲「朝鮮中央通信」)ということであるが、「総合的かつ総務的関係」には、ロシアが去年9月に併合したウクライナの4州(「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」、ザポロジエ州、ヘルソン州)の開発も含まれているとみられる。

 既にこの地域の住宅建設(特に内装)に北朝鮮が熟練労働者を派遣しており、地元からはその高い技術と丁寧な仕事ぶりが高く評価されている。見返りに北朝鮮はロシアから石油や小麦を受け取る。双方が裨益(ひえき)する協力関係だ。ロシアは、ロケットと人工衛星分野においても北朝鮮に技術を供与するであろう。その結果、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)の航行システムの向上が生じる可能性がある。北朝鮮のICBM能力が向上した方がロシアの安全保障の強化に資するとプーチン氏が考えているのであろう。

 今回の金正恩氏の訪ロは北東アジアの軍事バランスを変化させる可能性がある。これを口実に沖縄に対する国防上の負担を強化する動きが東京の政治エリート(政治家、官僚)から出てくる可能性がある。県には、沖縄の利益を守るという観点から、独自の情報収集と分析に一層力を入れてほしい。

(作家、元外務省主任分析官)