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やんばるで秋に鳴くセミ!?【島ネタCHOSA班】


やんばるで秋に鳴くセミ!?【島ネタCHOSA班】
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

県外からの移住者ですが、秋にやんばるに行くと、「キーン、キーン」という特徴的なかん高いセミの鳴き声が聞こえますよね。最初はセミとは分からず、教えられて驚きました。このセミについて詳しく教えてほしいです。

(糸満市 アーリー)

沖縄の秋の風物詩ともいえるセミの鳴き声ですよね。ただ、意外と詳しくは知らない…という人も多いのではないでしょうか。かくいう調査員もその一人。これを機に、きちんと調べてみたいと思います!

甲高い鳴き声

というわけで、調査員は琉球大学博物館「風樹館」へ。学芸員の佐々木健志さん(助教)にお話を聞きました。佐々木さんは、『沖縄のセミ』という書籍の著者でもある、セミなど昆虫の専門家です。

佐々木健志さん

「ああ、オオシマゼミですね」と佐々木さんは即答。現在、本島ではうるま市以北に分布し、慶良間諸島、久米島、奄美大島、徳之島にも生息するそうです。ちなみに、「オオシマ」という名は、奄美大島に由来するのだとか

出現時期は8月下旬~12月ごろ。やんばるでは10~11月ごろが鳴き声のピークですが、以前は1月上旬にも鳴き声を聞いたことがありますよ、と佐々木さん。また、数は少ないですが、6月ごろ出現する個体もいるそうです。

「キーン、キーン」とも「ケーン、ケーン」とも形容される甲高い鳴き声については、「熱帯のセミに近い鳴き声の感じですね」と佐々木さん。「東南アジアのジャングルに行くと、夕方にこういう感じの鳴き声が聞こえてきますよ」。へぇ~、そうなんですか。確かに本土のセミの鳴き声とは印象が異なるので、県外出身の質問者さんは驚かれたのかもしれませんね。

セミは1日のうちで鳴く時間が決まっている種もいますが、オオシマゼミは朝から夕暮れまでずっと鳴いているもの特徴だそう。

木の高い場所にいることが多いので、姿を見ることは難しいそうですが、写真を見せてもらうと、ブルーのしま模様の美しい姿が印象的。オスのほうがブルーがはっきりしているとのこと。

沖縄の秋の風物詩、オオシマゼミのオス(左)とメス。体長は46~52ミリ。(写真提供/村山望)
羽化するオオシマゼミのオス(写真提供/村山望)

セミには謎が多い?

オオシマゼミはツクツクボウシの仲間で、ツクツクボウシも本州などでは夏の終わりを告げるセミとして知られています。沖縄に分布するツクツクボウシの仲間として、「ジィーワッ、ジィーワッ!」と鳴くクロイワツクツクというセミもいて、こちらはオオシマゼミより少し早い8月上旬~11月下旬が出現期。本島南部にも見られますが、1990年代後半ごろから南部では個体数が減っているとのこと。

オオシマゼミより少し早い時期から鳴き出す秋のセミ、クロイワツクツク(写真はオス)。体長は23~37ミリ(写真提供/村山望)

「オオシマゼミも、僕が学生時代は浦添近辺や琉球大学周辺にも少しはいましたよ」と佐々木さん。ただ、分布域が狭まったり、個体数が減少したりする理由は、温度や森の乾燥などの影響が考えられるものの、まだよく解明されていないそう。

「セミは沖縄の季節感を表す昆虫ですが、よく分かっていないことも多いんです。分布も時代によって変わりますから、もし読者の皆さんの中に、南部でオオシマゼミの鳴き声を聞いた、という方がいらっしゃったら、ぜひ教えてください」と佐々木さんは呼びかけます。

まだまだ研究しがいがある沖縄のセミ。身近にも、たくさんのロマンがあると実感した調査員でした!


〈参考文献〉

『沖縄のセミ』林正美=監修、佐々木健志・山城照久・村山望=著(新星出版/1572 円)
※セミの鳴き声CD付き

(2023年10月19日 週刊レキオ掲載)