【島人の目】KENDAMA


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ある日、長男の光亜(KOA)が「KENDAMA」を知っているかと聞いてきた。世界的に大流行の気配と聞く。学校でもはやっていて自分も欲しいという。日本に帰った時に買ってあげると約束すると、既に妻がインターネットで購入を済ませていた。なんと便利な時代なのだろう。

 KOAの話で気になることがあった。同級生が教室でけん玉をしていると先生が「日本のものは嫌いだからしまいなさい」と話したらしい。この先生は中国語担当で中国大陸出身の40代の女性教師だった。
 これは多民族国家で民族融和を重視し、民族間のいざこざに厳しいシンガポールでは問題発言である。SNS(会員制交流サイト)などへの宗教や民族を侮辱する書き込みでも問題になる。KOAに先生の発言を聞いた感想を尋ねると、急に小声で「少し悲しかった」と話した。
 中国や韓国と比べるとシンガポールでは反日感情は少ないが、第2次世界大戦時に日本軍に侵略され多くの自国民が虐殺された歴史を持つ。屈辱の歴史は教科書に載っている。
 シンガポール大学の寮で食事中に突然「お前たち日本人がシンガポール虐殺をしたことを知っているのか?」とただされたことがある。同じく第2次大戦時に地上戦で被害を受け、いまだに基地問題などを抱えるウチナーンチュとして複雑な気持ちになる。「TOYAMA」の名を持つKOAも次男のJ―YAも時折、嫌な思いをしているのだろう。
 息子には「苦しみしか生まない戦争は決して起こしてはいけないということ。歴史を認識した上で未来を見詰めてほしい」と話した。シンガポール人で、祖父が日本兵に殺された妻アメリアも分かってくれているようだ。
 シンガポールはリー・クアン・ユーの指導の下、世界大戦時のことは解決し日本企業を含む積極的外資誘致によって繁栄を成し遂げてきた。しかし、前記したように過去の歴史はしっかり語り継がれている。
 「過去をしっかり認識し未来を見詰めている」のだ。KOAの学校の先生も日本の「KENDAMA」を嫌うのでなく、しかるべき理由の本質を伝え、子どもたちの未来のためになる指導をしてほしいと感じた。一人一人がそうすることにより世界は良くなるはずだ。(遠山光一郎、シンガポール通信員)