「はいたいコラム」 自然に寄り添うしなやかさ


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 島んちゅの皆さんへいつものご挨拶(あいさつ)をする前に、きょうは熊本・大分の皆さまにお見舞い申し上げます。まだ揺れが続いている段階で全体の状況は把握できませんが、この地球上でいちばん大切なのは人の命です。どうか早く救助されますようご無事をお祈りします。

 熊本には、私も「あか牛」の牧場や生産者の知り合いがおり、人命の無事は確認できましたが、牛は揺れが起こるたびに電気柵をものともせず走りだすらしく、命の繊細さを感じずにいられません。
 地球の猛威に改めて日本列島の地盤を考えました。国土強靭(きょうじん)化計画によりますと「日本近海のプレート運動は、世界でも有数の地震多発帯、火山活動多発帯といった自然災害の場を形成し、地殻の上昇も加わって、非常に脆弱(ぜいじゃく)な地盤をもつ日本列島を作り」とあり、また国土交通白書には「アジアは世界の中でも自然災害が多い地域で(中略)日本は、地質、気象等の国土・自然条件から、地震、台風、集中豪雨等の自然災害に対し脆弱な国土」とあります。
 しかし、この国の先人たちは、度重なる災害をもたらす自然をそれでも愛し、恵みにもなるように生かして衣食住を育み、自然と寄り添ってきました。
 沖縄も台風、暴風、豪雨などに度々見舞われてきましたが、一方、裏を返せばそれゆえに、沖縄独自の漆喰(しっくい)で塗り固めた美しい赤瓦や、整然とした石垣が文化として形成されたともいえます。そうした先祖の知性と技術を受け継ぐことが私たちに与えられた術ではないでしょうか。
 これからの考え方は「防災」だけでなく、「減災」が重要です。日本列島に住んでいる以上、自然災害は起きるんだという前提で、つきあっていくことが大切です。
 雄大な阿蘇は、牛の放牧景観と伝統農法が、世界農業遺産に認定されていますが、本年度新たに始まった「日本農業遺産」では「過去の自然災害などに対する回復力(レジリエンス)」が盛り込まれていました。これこそが世界における日本の強みです。
 熊本は国内有数の農業地帯で、野菜、生乳、肉牛、いずれも全国上位を誇ります。農業で培われた知恵で、自然を恵みに変える強さと、回復するしなやかさを期待すると同時に、これから、私たち一人一人ができることを考える時です。(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)
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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。