ガジュマルの花、どこにある!?【島ネタCHOSA班】


ガジュマルの花、どこにある!?【島ネタCHOSA班】
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沖縄県民なら、誰もが毎日目にするガジュマルの木。でも、その花って見たことがありますか? ガジュマルにもちゃんと花があるのですが、そこにはあっと驚く仕組みが隠されているんです。島ネタCHOSA班が調べてきました。

話のきっかけは、調査員仲間の雑談から。「そういえばガジュマルの花って見ないよね」。言われてみれば…!

花があるのはどこ?

佐々木健志さん

というわけで、調査員は琉球大学博物館「風樹館」へ。学芸員の佐々木健志さん(助教)にお話を聞きました。

ガジュマルにもちゃんと花がありますよ、と佐々木さん。えっ、実はよく見かけても、花が咲いているのを目にしたことはないのですが…。

調査員の疑問に対して、実のように見えるのは、実際は「花嚢(かのう)」と呼ばれる部分という返答。花軸が肥大して袋状になり、その内側に小さい花をたくさんつけるのだそうです。ええーっ、外から見えない内側に花!?

ちなみに、ガジュマルはクワ科のイチジク属。私たちがイチジクの実と思っている部分も、実は花嚢が熟した果嚢(かのう)と呼ばれる部分で、イチジクのつぶつぶは、一粒一粒が、もともとは花だったのだそう。

コバチと共生

しかし、なぜわざわざ外から見えない場所に花を咲かせているのでしょう。さらに「どうやって受粉するの?」という疑問が調査員の頭に浮かびます。そこには、驚異の仕組みが隠されていました。

鍵となるのは、「ガジュマルコバチ」という昆虫の存在。

ガジュマルコバチは、体長数ミリ程度の小さなハチの仲間。羽のあるメスが、花嚢の先の小さな穴から中に入り込んで、花粉を媒介します。

ガジュマルの花嚢には、おしべだけの雄花とめしべだけの雌花があって、花嚢に潜り込んだメスバチは、雌花の花柱の先から産卵管を差し込み子房に産卵します。

ガジュマルの花嚢の断面写真。花嚢の内側に小さな花をたくさんつけており、ガジュマルコバチのオスとメスが確認できます(写真提供/佐々木健志さん)

ここで少々複雑なのが、雌花には花柱が長いもの、短いものの2種類あること。花柱が長いと産卵管が子房までとどかず、その雌花には種ができます。一方、花柱が短いと、子房に卵を産むことができ、ふ化した幼虫は大きくなる子房を食べて成長できるのだとか。

「つまり、ガジュマルの花嚢の中には花粉を運んでくれるガジュマルコバチの幼虫を育てるための花と、種をつけるための花の両方が咲くんです」と佐々木さん。

幼虫は花の中でさなぎになり、雄の方が少し早く羽化して出てきます。雄は、雌が閉じ込められてる花に穴を空け雌と交尾します。交尾をすませた雌は、雄花の花粉を身体につけて花嚢の外へと出て、別の花嚢へと飛んでいきます。雄には羽がないので、花嚢の中で一生を終えるのだそうです。

「熟した果嚢を鳥が食べ、樹上などで糞をするとそこで中の種が発芽します。そこから気根を地面に伸ばし、やがて元の木を絞め殺してしまうため、ガジュマルは絞め殺しの木と呼ばれます」。なるほど、そういうわけでしたか。

「イチジク属の植物は、全てポリネーター(花粉の媒介者)と植物が1対1の関係にあります。ガジュマルの場合は、ガジュマルコバチという相手がいて、お互いがいないと種をつけることも、繁殖もできません。こういう関係を『絶対共生』といいます」。日本にはイチジク属の仲間が16種、県内には13種(アコウ、イヌビワ類など)があるそうですが、それぞれ対応するコバチがいるとのこと。

ガジュマルと同じイチジク属の木・アコウと絶対共生関係にあるアコウコバチ。花嚢の上で、穴の様子をうかがっています(写真提供/村山望)

身近なガジュマルにもこんな複雑な自然の仕組みが働いていたことに驚いた調査員。いや~、勉強になりました。皆さんも身近な方にぜひ伝えてみてください!

(2024年1月25日 週刊レキオ掲載)