「はいたいコラム」 忘れられない言葉


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 先日、こんなうれしいことがありました。わたしの書いたコラムを、毎回きれいに切り抜いて台紙に貼り、スクラップブックにしてくれる人がいることを知ったのです。拙(つたな)い文章をそんなにも丁寧に扱ってくれるなんて何とありがたいことでしょう。仕事の励みってこういうことですね。原稿料じゃあないんです。報酬に関わらず、自分の仕事を丁寧に受け止めてくれる人がいると知ったら、誰だって誇りを持てるだろうと思いました(もちろん原稿料も大事ですよ)。

 私の社会人キャリアの始まりは、石川テレビという局のアナウンサーです。入社3年目当時、ニュースの中で自分の企画コーナーを担当していました。放送終了後、毎日スタッフ全員で反省会をするのですが、その日の私の企画については、誰からも一言の感想もありませんでした。深夜までかかって編集したのに、なんだかやりがいがないな~。憧れて就いた仕事だったけれどつまらないな~。そう思いながら会社を出ようとしたとき、守衛のおじさんが「お疲れさま、見ましたよ。あんな話あるもんやねえ。地元におっても知らんもんや」と声を掛けてくれたのです。「わああ、ありがとうございまーす」。私は必要以上に大きな声で返事をし、外へ出て、泣きました。そして夜空を見上げて、よし、このおじさんに向けて仕事をしようと誓ったのでした。20年以上たった今でも、守衛室の前の小さなテレビを見てくれたおじさんを私は忘れません。たった一人の理解者の言葉や行為があれば、人は頑張れるのです。

 農林漁業、介護職、中小企業もそうですが、人材不足の業界の課題として賃金の低さや労働条件が指摘されます。でも本当に足りないのは励みとなる一言や、喜ばれている実感ではないでしょうか。食べものをつくる、命に関わる、人の生活に欠かせない最も意義深い仕事なのに、感謝や励ましの言葉が現場に届かないと、人は誇りや希望を持ちにくいものです。

 どんな小さなステージでも人から拍手をもらえれば、続けるのに十分なモチベーションになります。社内や家族、身近な相手にこそ、ささやかな声掛けやねぎらいの一言を忘れないようにしたいものです。
(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。