「はいたいコラム」 景観こそ地域の看板


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 島んちゅの皆さん、はいたい~! 北陸新幹線長野駅からしなの鉄道で20分。長野県飯綱町へ行ってきました。戸隠や黒姫と並ぶ北信五岳の一つ、飯縄山の麓に広がるりんご栽培が盛んな町です。

 飯綱町商工会設立10周年のシンポジウムがあり、登壇者の一人に、森の中でリラクゼーションセラピーの宿を夫婦で営む遠藤美代子さんがいました。石川県出身の遠藤さんは、宿を開く場所を探していたとき、たまたま道に迷って飯綱町のりんご祭りに遭遇し、食べたりんごのあまりのおいしさに感動して、この町に住む!と決めたそうです。その後、町の人に会う度に「飯綱のりんごがおいしいから移住して来た」と話していると、なんと空いているりんご園を引き継がないかと持ちかけられ、今では、夫婦で40本のりんごの木を育て、宿のお客さんに収穫体験をしてもらっているそうです。わずか3年での展開。ご縁ってあるんですね~。

 広告ビジネスの世界では「看板を掲げると情報が集まる」という法則があります。どんな小さな会社でも、自社の主義や方向性という“看板”を掲げれば、話は向こうからやってきて、次なる展開が始まるというのです。遠藤さんの場合は「この地のりんごを愛している」という看板を、人と話す度に知らず知らずに掲げていたことになります。農園に加えて、りんご栽培の師匠にまで巡り合えたそうです。

 看板を掲げたのは、遠藤さんだけではありません。町に「りんご祭り」という看板があったからこそ、夫婦の足を止めたのです。りんごの収穫祭からまさか生産者が誕生するなんて誰が想像したでしょう。

 地域は人を呼び込むために外へ目を向けがちですが、魅力ある地域とは、毎年心を込めてりんごを作り続ける人々がいてこそです。秋には収穫祭をして実りを喜び合い、祝福し合う姿が、よその人にはまぶしく映るものです。

 飯綱町はまた皇室に献上するほどおいしいお米の産地でもあります。山の麓に連なる黄金色の田んぼとハサ干しの風景は、それはそれは見事でした。合理性だけではない、手をかけた農家の仕事の継承が、日本の秋を生み出しているのです。農家は食べものを作っているようで、実は地域をつくっています。この景観こそがその土地の主義を表す看板なのです。
(第1、3日曜掲載)

・・・・・・・・・・・・・・・・

 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。