■「アメリカンファースト」米軍再編に影響か
共和党候補で不動産王のドナルド・トランプ氏が民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官を破り、8日の大統領選での勝利を確実にした。「米国第一主義」を掲げ、外交政策では日本など同盟国に負担増を求める立場を一貫して主張してきた。同盟重視の姿勢を打ち出し国際協調路線を取るオバマ政権とは異なり、同盟国との間で摩擦が生じる恐れもあり、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設などの米軍再編への影響も出そうだ。
■「グアム移転費」問題視は避けられない?
オバマ大統領の外交政策を批判してきたトランプ氏は外交路線を転換していくものとみられる。トランプ氏は討論会で「私たちは日本を防衛し、ドイツを防衛し、韓国を防衛し、サウジアラビアを防衛し、他国を防衛している。もし彼らが相応の負担をしないのなら、日本を守ることはできなくなる」とし、日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国に対し、同盟国側の負担増を要求。在日米軍を撤退させるとの考えを示したほか、安保条約の見直しにも言及している。
トランプ氏が大統領に就任すれば、こうした駐留経費の負担増のほか、国防費削減の中でコストが膨らみ続ける在沖米海兵隊のグアム移転を問題視する可能性もある。
■元国務省高官「代替案提示なければ移設継承」
米スタンフォード大アジア太平洋研究所のダニエル・スナイダー副所長は「日本だけでなく、世界中の私たちの同盟を不安定にする。トランプ氏の日本に対する見方は1980年代で止まっている」と指摘する。
翁長雄志知事が反対する米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について、トランプ氏が自身の考えを表明したことはない。
米国防総省系シンクタンク「アジア太平洋安全保障研究センター」准教授などを務め、日米関係と安全保障に詳しい笹川平和財団米国のジェフリー・ホーナン氏は「普天間や地位協定改定などの論争がある交渉は悪い方向に向かうだろう。悪い感情にかき乱されることになる」と分析する。
一方、元国務省高官は「米国の外交政策は誰が大統領になろうとも、継承される。日本政府が代替案を提示しない限り、米側から辺野古移設を見直すことはない」と強調する。米国防総省、国務省は次期長官にそれぞれ、現行計画が「唯一の解決策」とし辺野古移設を推進するオバマ政権の方針を説明する方向だ。
■「白紙」のトランプ氏に移設強行不利益浸透させる好機に
トランプ氏は選挙戦で、軍事費の増額とともに、陸軍や海兵隊の数などは増やすとの意向を明らかにしている。ただ、政府・軍での職務経験がない初めての大統領となるトランプ氏が政権運営と外交政策をどう展開していくかは不透明だ。辺野古移設を巡り県と日本政府の対立が激しくなる中、トランプ新大統領の対応が注目される。同時に知事権限を行使し、新基地建設を阻止するとしている翁長知事や沖縄の民意を無視して強硬に移設工事を進めることは困難であり、米国にとっても有益ではないことを新政権にどう浸透させられるのか、県の取り組みも問われている。
(問山栄恵ワシントン特派員)
※(琉球新報本紙に随時掲載の「単眼複眼」を電子版用に見出しを編集しています)