「はいたいコラム」 ヤギのいる暮らしは豊か


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 島んちゅの皆さん、はいたい~。先日、熊本県阿蘇市で全国山羊(ヤギ)サミットが開かれました。「山羊と共に育む豊かな農と暮らし」をテーマに生産者、研究者、獣医師からペットとしてヤギを飼う人、全国から300人が集まりました。

 ミルクにアレルゲンが少なく、子どもや高齢者も飼いやすいヤギは、チーズ加工や耕作放棄地の再生、またCSR(企業の社会的責任)の環境活動としての除草など、多様な用途が注目されています。

 自らトカラヤギを飼う萬田正治・元鹿児島大学副学長は基調講演で、世界でヤギの飼養頭数は6億頭、その7割をアジアが占め、増加の一途をたどる一方、日本では激減したことを指摘し、輸入飼料依存型の畜産に代わるヤギの価値について話されました。

 私も沖縄をはじめヤギを取材して感じるのは、本格生産以外での存在価値です。東京の体験農園や、岡山、静岡の棚田再生NPOでもヤギを飼っていましたが、いずれも除草効果より人々の「癒やし」として、農村と都市を結ぶシンボルになっていました。

 今回、山羊サミットの発表で私が特に感動したのは、宮城県南三陸町の小学校から、現在熊本の小学校へ赴任している仲松晃教諭による「被災地の学校を活性化させる動物飼育」についての報告です。

 「ヤギを飼うことで子どもたちは、世話をされる(受動的)立場から世話をする(能動的)立場に変わり、自己有用感が高まった」というのです。とても意義深い指摘でした。そして私にはこの話が、子どもだけではなく、都市の消費者と重なると感じました。

 食べものはお金さえ出せば与えられると思っている人は、どこか受動的です。自分で一度でも作ったことのある人なら生産者や産地をもっとリスペクトするようになるでしょう。ヤギの飼育は情操教育なのです。

 ヨーロッパには古くからこんな言葉があります。「牛乳を配達する者はこれを飲む者より健康である」。なかなか含蓄がありますよね。農業や生産者について考えるとき、わたしはよくこの意味を考えます。「配達」は「生産」と置き換えてもよいでしょう。与えられる人よりも供給する人の方が健やかで、豊かで、エラい!のです。

 ヤギのいる沖縄に根付くのは、まさに与える側の暮らし。それこそが豊かで健康なのです。

 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。