乳幼児期とひとり親 優先支援を 子どもの貧困対策提起 浅井立教大教授講演


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貧困状態の解消へ乳幼児期やひとり親支援の重要性を強調する立教大教授の浅井春夫氏

 第32回沖縄市こども施策研究会が19日、沖縄市福祉文化プラザで開かれ、子どもの貧困問題や沖縄の保育・子育て事情に詳しい立教大学の浅井春夫教授が講演した。浅井教授は貧困解消への施策継続と予算を確保するために県条例制定を提起した。優先順位の高い施策として、親の就労環境改善に加え、乳幼児期とひとり親家庭の貧困対策を挙げた。講演の要旨を紹介する。

 子どもの貧困問題のベースは労働問題だ。労働環境の改善を抜きにして貧困の改善はできない。日本は世帯の総年収に占めるこども手当や児童扶養手当など社会保障費の割合は、子育て世帯(2015年国民生活基礎調査)で2・3%、母子世帯(13年同調査)で15・2%にとどまっている。保護者が失業すると貧困に陥る。ひとり親、2人親世帯が健康で文化的な生活を送るために必要な給与水準を算出し、貧困ラインとして設ける。ラインに満たない部分を補てんするような「総額支援確保方式」の仕組みが必要だ。親の就労支援のほか、児童扶養手当の増額を求めることも重要だ。

 妊娠・出産を機に仕事をやめる人が多い。企業が母親を積極的に登用し行政が子育てに優しい優良企業として認証する制度を設けてほしい。子どもを大切にする企業や社会貢献している企業を明確化してほしい。

 貧困対策の空白部分になっているのが乳幼児期の対策だ。養育は家庭問題とされがちで、「親が面倒を見るでしょう」という自己責任論がある。しかし、国際的な施策の経験を通して、乳幼児期にしっかり対策を取ると最も効果があるといわれている。その時に保育所がプラットホーム(土台)になり、待機児童解消は急務だ。沖縄では(一部市町で)公立保育所を全廃する動きがある。公立は経験豊かな保育士が多く、(実践内容は)保育の質の担保につながるし、民間の保育園の参考になる。むしろ公立の積極的な活用法を考える必要がある。

 貧困の実態調査の手法を提案したい。小中高校への入学前後、卒業前後、受験準備の時期などに合わせた「生活局面調査」を実施し、費用がかかる時期の乗り切り方を検討してほしい。

 学校改革は、子どもの貧困対策特区を設けてモデル校をつくり、こども食堂や学習塾などの支援者も参加する貧困対策委員会を設置し情報交換する。(校内で)登録制による朝食サービスを手掛ける。(特区の)教育委員会には就学援助の専任職員を配置することも必要だ。

 子どもの貧困対策に特化した県条例をつくってほしい。条例は子どもとの約束で施策を実行するための基本方針になり、事業評価を盛り込むと改善策が講じられるようになる。県が条例を制定したら、県内市町村だけではなく、全国にも同様の動きが広がるはずだ。2017年を貧困対策の再出発点にしなければならない。