【東京】文部科学省は24日、小学校道徳と主に高校2年生が使用する教科書の検定結果を公表した。沖縄返還協定の核密約に関して、山川出版社の日本史B「新日本史 改訂版」は「この密約がなければ、沖縄返還はさらに遅くなったであろう」などと核密約が沖縄返還の時期に影響を与えたとする見解を注釈で記載した。同社の現行教科書にも同じ記述がある。識者からは「推論の域を出ない議論だ」などと疑問の声が上がった。高校日本史教科書8冊中6冊が沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)を取り上げたが「日本軍による命令」「軍命」を明記した教科書はなかった。
佐藤栄作首相とニクソン米大統領は、沖縄返還に合意した1969年11月の日米首脳会談で、有事の際の核持ち込みを認めた「密約」を交わした。密約と沖縄返還の時期に関する記述の根拠について、山川出版社の担当者は24日、取材に対して「執筆者の研究に沿って記述している」と回答した。
「集団自決」に関して各教科書は「日本軍によって集団自決に追い込まれた」などの記述にとどめた。その中で実教出版の「高校の日本史B新訂版」は「日本軍により、戦闘の妨げになるなどの理由で県民が集団自決を強いられた」と「集団自決」の背景にも触れた。
2006年度の検定意見は「集団自決」の日本軍の命令や強制・関与の有無を断定的に記述しないよう要求した。そのため「集団自決」の原因が不明確になるなど各教科書の記述は大幅に後退した。県内からは同検定意見の撤回を求める声が上がっているが、文科省の担当者は取材に対し「審議会の専門的な審議結果によるものであり、撤回ということは考えていない」と説明した。
明治政府による沖縄県設置を「琉球併合」「廃琉置県」と表記した教科書には「誤解を与える恐れがある」との検定意見が付き、「琉球処分」に改められた。「琉球併合」「廃琉置県」の用語を巡って、文科省は「学会で用いられたり、辞書などで使われている一般的な用語ではない」などと検定意見の意図を説明。一方で、用語として定着、普及した場合には将来的に教科書に記載される可能性を示した。
米軍再編の目的について、実教出版の一冊の「沖縄の基地負担軽減それ自体が目的ではなく、世界規模での米軍再編の一環」との記述に関し「生徒が誤解するおそれのある表現」との検定意見が付いた。文科省は同記述への検定意見について「米軍再編には沖縄の基地負担を軽減する目的も含まれている」などと説明した。