ラジオ沖縄(ROK)の「方言ニュース」キャスターを35年間務めてきた伊狩典子(ふみこ)さん(88)が28日午後1時からの放送を最後に引退する。戦争を生き残った自分を「ひきょう者」と責めた時期もあったが「生かされた私にはうちなーぐちを広める使命がある」と考え、普及に尽力してきた。肝心(ちむぐくる)のにじむ「やふぁやふぁ(やんわり)」とした首里言葉で沖縄の今を伝えてきた。
方言ニュースは1960年に始まり、伊狩さんは82年に小那覇全人(ぜんじん)さんと共にキャスターに就任した。小那覇さんは2012年に引退し、歴代キャスターで伊狩さんが最も長く務めている。ラジオ沖縄の小磯誠制作報道部長は「後進も育てないといけないのでバトンタッチの時期と判断した。こちらも(引退について)話すのはつらかった」と語る。
伊狩さんが子どもの頃は学校でうちなーぐちが禁じられていた。だが両親は「故郷の言葉を大切にしなさい」と家ではうちなーぐちしか使わせなかった。
県立第一高等女学校に進学したが、熊本県に疎開した。一高女の友人を沖縄戦で失い、兄政治(まさはる)さんは出征して亡くなった。方言ニュースで戦争の記事を伝える時は、戦没者に祈ってから読んでいる。
キャスターを始めた当初は首里言葉が「ばか丁寧」と言われることもあった。首里でも地域によってしゃべる速さが異なり、ニシカタ(首里城の北)の人からは「もっとゆっくり」、首里三箇(赤田・崎山・鳥堀)の人からは「遅過ぎる」と注意された。周囲の指摘にくじけず地道に続けてきた。
大切にしているのは直訳せず「ウチナーンチュの魂」が伝わる言葉を選ぶことだ。21日には全学徒隊合同慰霊碑建立のニュースを読んだ。「名を刻んだ」という原文を「名(なー)、ふいくまっとーる(彫り込まれている)」と訳した。「『ちじゃでーる』だと命を切り刻んでいる感じがする」という。
引退について「50年続けるつもりだった。納得するのに時間がかかった」と正直に語る。今後も県立看護大学でのうちなーぐち指導や講演活動は続けるつもりだ。「若者とじかに接しながら教えていく。私もまだ勉強中。生涯学習だ」と若々しい笑顔を見せる。(伊佐尚記)