難治性の小児がん「小児脳幹部グリオーマ」で長女の優衣奈さん(享年11)を亡くした高木(たかき)伸幸さん(45)=神奈川県=がこのほど、妻の裕美さん(42)、長男の優成君(12)と共に、娘の追悼旅行で沖縄を訪れた。余命1年と宣告された2013年も、最後の家族旅行として沖縄を選んだという伸幸さんは「毎年沖縄に家族旅行に来ていたので特別な思い入れがある。だからこそ、治療法がない小児がんの現状を沖縄の人々にも知ってもらいたい」と語った。
小児脳幹部グリオーマは、脳の中枢の脳幹に悪性の腫瘍ができる病気。現在の医療では完治する治療法はなく、研究者も少ないという。県立南部医療センター・こども医療センターによると、県内でも複数の症例が確認されている。患者会「小児脳幹部グリオーマの会」に所属する伸幸さんは、治療研究の遅れや制度の問題を解消するための署名を集め、14年10月、研究体制の確立などを求め塩崎恭久厚生労働相に手渡した。
優衣奈さんは13年1月に小児脳幹部グリオーマを突然発症した。前日まで元気に歩いていたが、突然ふらつき始め、目の焦点が合わなくなった。
放射線治療で一時的に症状が良くなった頃、優衣奈さんが七夕の短冊に「沖縄へ連れて行ってね」と記した。毎年恒例の家族旅行はいつも沖縄と決めていた高木家。「最後の家族旅行かもしれない」。伸幸さんは再発の不安を感じながらも、涙をこらえて13年7月に家族を連れて沖縄を訪れた。家族水入らずの時を過ごした優衣奈さん。直前までほとんど動けなかったが、満面の笑みで海水浴などを楽しんだという。4カ月後の同年11月、優衣奈さんは他界した。
滞在中、家族でよく食事に行ったという本部町大浜の居酒屋「磯味処海鮮亭」を営む長嶺次夫さん(57)、良美さん(57)夫婦と優衣奈さんの思い出を語り合った。良美さんは「優衣奈さんは笑顔がかわいくて、花が咲いたように周囲を明るくした」と目を潤ませた。裕美さんは「沖縄の人々は親戚のよう。今、優衣奈に家族の思い出を聞けるなら、沖縄での旅行を挙げると思う」と話した。
伸幸さんは「沖縄に来るとエネルギーをもらえる。いつか、沖縄の地に病気や事故で亡くなった子どもたちの慰霊碑を造りたい」と夢を語った。(半嶺わかな)