若い女性が性産業に取り込まれやすい状況や、アダルトビデオの出演強要問題など、性を取り巻く巨大産業の背景に何があり、どこが問題なのか。米軍基地から派生する性暴力についても関心を寄せる、作家の北原みのりさんに話を聞いた。
―昨年6月に那覇市で開かれた米軍属女性暴行殺人事件に抗議する県民大会に参加されたと聞いた。
「米軍関係者による性被害について、基地があるから起きてしまうという『自然現象』のように語ることを絶対に許してはいけないと考えている。加害者の責任を追及していくための理論構築が本当に必要なんだと去年の事件で思った。性被害は軍隊や基地のある故の問題だと一般化してしまうと、加害者の責任が薄まる。日本軍「慰安婦」問題も同様で、「戦争の悲劇」として語ってしまうと日本の責任が薄まる。男の人が権利のように女性を買う文化があって、性暴力に対して鈍い雰囲気が社会にある」
―未成年が性産業に取り込まれる現状についてどう思うか。
「東京のJK(女子高生)ビジネスを取材したときに、10代の子が制服を着ているだけでおじさんが『いくら』と聞いてくる。『高収入 アルバイト』で検索すると、クリック一つで性産業にいける。どこまでが自分の主体的な責任としてなのか、社会に責任はないのか。女性が性風俗につながる環境が整いすぎている問題は大きい」
「性売買の根拠を聞くとおじさんたちは『世界最古の職業だよ』の一言で片付けてしまう。なぜこんなに発展し続けているのか、抜け穴のある売春防止法が、世界と比べてどうなのか。性売買を支える法律、意識、歴史、文化についても考えないといけない」
―子どもの貧困問題で、貧困解消に向け行政も取り組んでいるが、性産業に従事している子育て中の若い人は、支援の対象になりづらい。自分で選択したという誤解もある。
「男の人の中には『金払って支えてやっている』という気持ちの人もいるだろう。しかし見方を変えると『そんなに買わないといけませんか』『そこを前提にしなくていいのでは?』と思う。『性と国家』の本で対談した元外交官の佐藤優さんは、はっきり嫌いだと言っていたが、男の人にもそういう人はいる。男の人が男の人に向けて『買春やめようぜ』と言ってほしい」
「女性が遊ぶ金欲しさに売っているという男性の見方は、買いたい男の安心材料でしかない。男が値段を付けて売り、男が買っている。一方で、男の人の性も相当利用されていると思う。これだけコンビニにエロ本が並ぶ社会で、男性の性的圧迫感も強いだろう。本当は嫌だけど、キャバクラに付き合う人間関係や文化もあると察する」
―アダルトビデオ(AV)への出演強要問題が、最近表面化している。
「AVや風俗がこれだけ巨大産業で一般化されている状況は、他の国で例えようがない。結局AVも風俗も性労働や性表現の問題ではなく『性搾取の問題』だ。性搾取と捉えれば、現実に起きている被害を浮き彫りにでき、こんなことを強要している社会がおかしいよと言える。AVの被害が訴えられないのは、出演料が発生していたり、映像が流通する中、声を上げるとさらに広まったりする恐れがあるから。表現の自由を盾に、あたかも(監督や出演者を)表現者のように祭り上げるのは新たな暴力を生んでいるし、被害者の口をふさいでいる。まず被害者がこれだけいるということを、言っていかないといけない。被害を訴えることと、男たちの需要をやめるのを一緒にやっていかないといけない」
(聞き手 知花亜美)
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きたはら・みのり 1970年神奈川県生まれ。作家。1996年、フェミニズムの視点で女性のためのセックストーイショップ「ラブピースクラブ」を設立。著書に「毒婦。」「奥様は愛国」(共著)、「性と国家」(同)など。