与那国陸自配備から1年、迷彩服往来で島の風景一変


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 与那国島に陸上自衛隊の駐屯地と「与那国沿岸監視隊」が創設されてから28日で1年となった。隊員160人と家族らが移り住んだ。地域活動に参加し、学校の児童生徒数が増えるなど過疎化が進む地域社会へ一定の効果はみられる。一方でドラマの舞台にもなった牧場は柵に囲われた駐屯地となり、配備後島内は迷彩服で往来する隊員が目立つようになるなど島の風景は様変わりした。

与那国町に発足した陸上自衛隊の与那国沿岸監視隊=2016年3月28日、与那国町

 監視隊は島しょ防衛の一環で、攻撃に対する警戒監視任務を担う。防衛省は南西地域の防衛力の空白を埋めるため、宮古島市や石垣市に警備部隊の配備計画を進めており、同省の関係者は「初動対応を早められる」と意義を強調する。

 監視隊配置に伴い同省は与那国町内の祖納地区に18世帯の宿舎を建設した。隊員が家族連れで入居し、地域の小中学校には14人の児童生徒が転校してきた。2018年9月ごろまでに比川地区に9世帯、久部良地区に33世帯の宿舎を建てる予定で、町は家族連れ隊員が赴任し、全3地区で生活してもらうことを要望している。そのため、生徒数の減少で一時中学校の統合話が持ち上がったが、議論は先延ばしになるなど自衛隊は存在感を強めている。

 一方で、経済的な地域振興への効果は低い。関係者によると、水産物の消費は伸び悩むなど当初の期待感は「トーンダウンしている」という。地域には配備後、島外事業者が開いた飲食店は1件だけにとどまっており、役場職員は「(自衛隊が)事業や雇用の呼び水にはなっていない」と話す。

 町内は働き手が確保できず夕食提供を取りやめる民宿が増えている。また、防衛予算の補助でエビ養殖場の建設が計画されるが、労働力不足は否めない。

 上地常夫総務財政課長は「まだ1年で変化や効果は評価できない。宿舎が整備され、隊員の家族がどれほど来るかにかかっているだろう」とした上で、現状について「マンパワーが足りていない。隊員の家族に短時間でも働いてほしいと思っている」と期待した。

 陸自頼りの産業活性化に期待を寄せる傾向に「与那国島の明るい未来を願うイソバの会」の山口京子さん(58)は「日々の生活で関わりが増え、今後さらに依存体質が進むのは確か。受け入れが地域にとって良かったのか悪かったのか、地域社会や文化を継続させていくために必要なものは何かを考えるため、自治や自衛隊問題を議論することは大事だが、話題に上げにくく気持ちが萎縮していく状況に不安を感じる」と話した。(謝花史哲、仲村良太)