「はいたいコラム」 直島はなぜ美しくなったか


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 瀬戸内海に浮かぶ香川県直島町へいってきました。直島を中心に大小27の島からなる町の人口は3100人。ですが、訪れる旅行客は年間50万人! 世界に知られる“アートの島”です。

 高松からフェリーで1時間、港で迎えてくれるのは世界的芸術家・草間彌生さんの赤いカボチャ。写真を撮る人だかりができています。そのほか安藤忠雄氏の設計による美術館とホテルの機能を備えたベネッセハウス、クロード・モネの作品が展示される地中美術館、世界一派手な銭湯など島のあちこちにアートが溶け込んでいます。なぜこれほどの芸術が小さな島で展開されることになったのか。

 きっかけは1985年、当時の直島町の三宅親連町長と、社会貢献をしたい福武書店(現ベネッセ)創業者の福武哲彦社長が出会い、文化や教育の場として始まったのが「ベネッセアートサイト直島」です。

 直島には、美しくクリーン、かつ自然環境に配慮した場所にしなければならない理由がありました。直島の隣にある豊島は、70年代から90年にかけて、91万トンという史上最大の産業廃棄物不法投棄が行われた「豊島事件」の現場だったのです。その91万トンの処理が終わったのは今年3月。発覚から実に27年もの歳月を要しました。戦後日本の高度成長を支えてきた工業地帯にほど近い瀬戸内海の美しい島々は、都市部から少し見えにくいという理由で、負の遺産を背負わされてきたのです。

 しかし30年の時を経て、今では若い人やインバウンドを引き付けるアートの拠点として、直島と豊島は生まれ変わりました。

 私が最も感動したのは、美術館の鑑賞を終えて、バス停でバスを待つ間に見た景色でした。島の海、緑、砂浜。どんな作品よりも美しい絵画であり彫刻に思え、なるほど古今東西の芸術家は、この自然に近づきたいと挑んできたのだということを確信しました。そしてもう一つ心に残ったのは島の集落を丸ごと作品にした「家プロジェクト」です。焼杉板の塀が連なる町並みに島の暮らしの知恵を見ました。

 地方の時代の先進事例とも言える地域とアート。課題があったからこそ島は変わり、美しくなったのです。どこまで自然を敬い、生かせるか。いま問われているのは、人間の暮らし方というセンスです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)