琉球新報と那覇市(なは女性センター)は3月31日、共同企画として座談会「誰もが使いやすいトイレって? 性の多様性から考える」を開いた。ゲイ、Xジェンダー、トランスジェンダーでFTM、性同一性障害(GID)でMTFの当事者が参加。各自の経験や海外の事例を基に、どんなトイレなら誰もが使いやすいのかを考えた。参加者はまーちゃんさん、りょうぽんさん、あーちゃんさん、まぁ君さん、ミーさん(いずれもニックネーム)。進行は琉球大学大学院法務研究科教授の矢野恵美さん。(敬称略、〈上〉は17日付に掲載しました)
安心できる空間に
矢野 多くの公共施設は予算が限られていて、簡単には作り替えられない。既存のトイレで工夫が必要だと思う。
あーちゃん 男性用にも女性用にも入れない人が使いやすくなるような「トイレの表示」があるといい。
まーちゃん 以前、男女別のトイレを誰でも使えるように変えたところがあった。でも、タイルが元女性用はピンク、元男性用は青のまま。色の作用なのか、男性は青へ、女性はピンクへと自然に行く。
矢野 色の問題も含めて、どのようなトイレがいいか、北欧の事例を見ながら意見を聞きたい。
北欧のトイレで色の違いはまず見ない。例えばスウェーデンのウメオ大学では、ドアに「WC」とだけ書かれた個室トイレや、ドアに男女・車いすなどのマークが書かれていて、中に入るとさらに個室が並んでいるものがある(※イラスト参照)。個室の中に手洗い場と鏡があり、(他人との)共有スペースを使わないで済む。
あーちゃん 人と顔を合わせる共有スペースがなく、完全に個室なので、安心して使える。セクシャリティーを原因に入れない人だけでなく、誰にとっても良い仕組みだと思う。
ある調査で、学校のトイレではからかわれるから大便をしないと答えた男子が4割いた。また、障害者用トイレに男女の区別がないことに対し、「障害者は性別がないのか」という声を聞いたこともある。こんなふうにそれぞれが現状のトイレで困っているので、いろんな視点からパーソナルなスペースであることが望ましい。
ミー GIDだと未成年のときからホルモン治療をしている人も少なくなく、(生まれた体が男性でも)女性にしか見えない人もいる。その場合(GIDであると)ばれないよう、自分からGIDであるとは一切言わない。そういう人があえて(現状のような)多目的トイレに入ることはないと思う。
矢野 個室のトイレだけじゃ嫌だ、どうしても男女別のトイレがなければ駄目だ、という人は少ないのでは。GIDの人たちも他の人にとっても、やはり個室で整備されているのがいい形ではないか。
議論深め、皆で解決を
最後に座談会の感想を。
りょうぽん (講演など)人前で話した際にトイレについて聞かれたことがある。ゲイ当事者の僕は困った経験がないので、その時は「なぜそんなこと聞くんだろう?」と思った。いま考えると、(LGBTなど性的マイノリティーは)それぞれに問題や悩みがあるのに、知らない人は全て一緒にくくっているんだろうと思う。今度聞かれたら、今日の話ができたらと思う。
まぁ君 ここに来る前に職場で座談会のことを話したら「そう言われれば大変だったね」と初めて気付いたようだった。僕ら当事者は常にトイレは大変だと感じているし、当事者同士ならその話題も出る。でも、そうじゃない人には、そもそもそういった認識がない。
あーちゃん 男性用、女性用、多目的などいくつかある中から、自由に軽い気持ちで「じゃあこっち」と選んでいるわけではない。入り口を前にすごく悩み、とにかく居場所がほしいと思っている。誰もが毎日使う場所が確保されず困っていることが伝わったらいい。
ミー (性的マイノリティーを対象にした)調査結果を見ても、やはりMTFにトイレを我慢している人が多い。トイレの問題はGIDの人からすると大きな問題。皆さんが考える意識づけになってもらえたらと思う。
まーちゃん セクシャリティーや自分自身って何だろうということについて考えることがあまりに多くて、面倒になってトイレの問題を封印していたこともある。今回、思いを伝えることができて良かった。今、トイレ問題が注目されているのであれば、一過性ではなく向き合ってほしい。ここで私たちが話したことが答えではない。これをきっかけに議論を深め、解決につながってほしい。
(この企画のまとめは大城周子、高江洲洋子、田吹遥子が担当しました)