「私のポジション」出版イベント(下) それぞれの立場、思い合う


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参加者がグループ討議 「他者との違い認める平和教育を」

 

平和学習の在り方など幅広いテーマで意見を交わし合う参加者たち=5月28日、那覇市天久の琉球新報社

 琉球新報での連載をまとめた「私のポジション『沖縄×アメリカ』ルーツを生きる」の発刊を記念し、5月28日に開かれたディスカッションイベントには、連載で紹介した人たちと同じように米国と沖縄にルーツを持つ人や、教育現場で当事者に接している人らが参加した。イベントの後半はグループに分かれての「ゆんたくタイム」。どうすれば違いを認め合う社会を築けるのか考え、特に教育現場での取り組みについて活発に意見が交わされた。

未来創る視点大事

 沖縄では多くの学校が「慰霊の日」に合わせて平和学習に取り組む。沖縄戦の写真やビデオ鑑賞、戦争体験者の講話などが中心だが、一方的あるいは一過性になってしまうきらいもある。この日は、教育現場で教える立場にある参加者もおり、「アメリカと沖縄にルーツがある子どもが平和学習の際に暗い顔をしているのが分かるが、どんな声かけが適切か悩んだ」「どんな平和学習なら互いの違いを理解し合えるかな」など、もどかしさを感じている声が上がった。

 父が元米兵で、連載にも登場した大城智代美さんは自身の体験した平和学習を振り返って「“敵扱い”されているようで苦しかった」といい、「誰もやりたくて戦争をやるわけじゃない。戦争は世界が抱える問題だという視点を伝えるべきではないか」と提起した。小学校教諭の平良ゆかりさんは、沖縄を学ぶ旅行を続けている和光小学校(東京都)の例を紹介し「戦争を『知る』だけではなく、未来を創っていく視点が大事だという話が記憶に残っている。自分なりの考えを基に判断、主張できる力を身につけさせたい」と語った。

否定せず尊重を

 親富祖愛さんも連載で紹介された一人で、米国人の父を持つ。黒人への人種差別を教える授業を例に「『差別がありました』だけで教科書の次のページをめくる。それだと子どもたちは『差別があった』というインパクトのみが残る」と指摘し「一人一人の違いを考え、違いを認められるようになるのが本当の平和教育と思う」と話した。親富祖さんの夫・大さんも「人は知らない人のことを簡単に否定しがちだ。でも相手のことを知れば知るほど愛情も出てきて肯定したくなるものではないか」と投げ掛けた。

 あるグループでは、日本語指導が必要な子どもがいた場合の対応もテーマになった。タムリンソン・マリサさんは学級ごとに受ける授業が決められている日本と、自ら授業を選び時間割を考える海外の教育システムの違いを挙げた。「特別なクラスだと目立つから嫌に思う子もいるかもしれない」とおもんぱかった上で、「子どもの希望が一番優先。そして先生たちは必要だと思うことなら強く伝え、親は先生を信じる関係が大事だと思う」と語った。

 県内の小中高で日本語指導をしている参加者は自らの経験を紹介。別の教室で日本語を学んでいる子のクラスメートに対し「例えば自分たちがアメリカの学校に突然転校することになったら、まず何が必要?」と問い掛けたところ「確かに言語のサポートが必要だ」という気づきにつながったという。さらに「あなたたちが知らないことを彼女はたくさん知っている。そして彼女も知らないことをあなたたちに聞きたいんだよ」と語り掛けると、以降の反応に変化が見られたという。ほかの参加者らも、相手の立場に立って考えることを抽象的ではなく具体的に伝えるいい例だとうなずいた。

 イベントではさまざまなバックグラウンドを持つ人が集い、互いの意見を否定することなく耳を傾けた。大切なのは多様な人がいることを受け止め、自分なりにそしゃくし、違いを尊重すること。学校に限らず「学び」の場は社会にたくさんある。

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 「私のポジション 『沖縄×アメリカ』ルーツを生きる」(琉球新報社)は993円。県内書店のほか、インターネット「琉球新報STORE」からも購入できる。

私のポジション「沖縄×アメリカ」ルーツを生きる
東江亜季子著 琉球新報社編
新書 111頁

¥920(税抜き)