「はいたいコラム」 地域と地球を守るお茶


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 静岡県掛川市にある茶園を訪ねました。植木のように刈り込まれたお茶の畝が、丘を越えて続く東山地区はとりわけ美しい景観で「茶草場農法」の産地として世界農業遺産に認定されています。茶草場とは、ススキなどの草が生えている草地のことで、東山の一帯では150年以上昔から刈り取った草を畝の間に敷き詰めて傾斜地の土を守り、良質なお茶を育ててきました。この茶草場農法が、絶滅危惧種のバッタをはじめ、300種以上の希少な植物の生息環境を育んでいたことが分かり、2013年、国連食糧農業機関(FAO)により、世界的に重要な農業システムだとして「世界農業遺産」に認定されたのです。

 お茶生産者は現在80戸。茶園180ヘクタールに対して茶草場は130ヘクタールあり、茶園の広さに匹敵するほどの草地を有します。急傾斜という地形ゆえのお茶づくりをしてきた人々の知恵と営みが、生物多様性を保ち、環境を守る役目を果たしてきたなんて、まさに最近はやりの“地域資源で社会課題を解決する”ソーシャルビジネスではありませんか。

 東山にそびえる標高532メートルの粟ヶ岳の斜面には大きな「茶」の文字があります。宣伝のために今から85年前の昭和7(1932)年につくられたと聞いて、びっくりしました。

 巨大な「茶」の字は、一辺が100メートルを超え、千本のヒノキでつくられています。トランシーバーなど通信機器のない時代、遠くから手旗信号でデザインを指示したそうです。今でこそ新幹線の車窓からも眺められますが、当時の人々はなぜ巨大な茶文字をつくったのでしょう? 「東山に茶どころあり」と伝えたい気概、あるいは自分たちへの“宣誓”だったのかもしれません。お茶を作り、この地で生きていくんだという自信と誇りを感じずにいられません。

 「茶文字の里東山」代表の田中鉄男さん(69)は「茶価は厳しいけれど、自分たちで利益を出してこの地域を守っていきたい」と2軒の茶店を営み、訪れる人に深蒸し茶を振る舞います。

 しかも掛川は10万人以上の市町村でがんになる人の割合が全国で最も少ない地域です。お茶はまさに心も体も健康にしてくれるんですね。まずは一度東山の茶園をハイキングしてみてください。誰もがこう叫ぶに違いありません。すばらTEA~!

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)