「はいたいコラム」 山羊と羊、分かり合える


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 北海道白糠町にある羊牧場を訪ねてきました。繁殖雌羊350頭を飼う武藤浩史さん(59)は、かつて100万頭いた日本の羊文化を継承するため、人材育成をはじめ「羊料理の本」や「ヒツジの絵本」まで出すほどの羊の達人です。

 牧場直営レストランで頂いた低温でじっくり焼いた仔(こ)羊のローストは、きめ細やかな肉質で香りもよく、一口ごとに胸がときめく上品なお肉です。地元産の野菜やチーズと合わせた羊料理は評判を呼び、グルメガイド「ミシュラン」の別冊ビブグルマンにも掲載されました。

 同じ白糠町には「羊まるごと研究所」という牧場(略して「ひま研」!)があり、酒井伸吾さん(45)が家族6人で繁殖雌羊100頭とともに暮らしています。羊肉はもちろん羊毛も活用しようと、ニュージーランドの毛刈り選手権日本代表になるほどの技術をお持ちです。畜舎やフェンス、木の枝のブランコまであらゆるものを手作りし、コストを抑えて自然を生かした牧場を営んでいます。

 森の木陰で休む羊たちもいれば、広々とした放牧地で日を浴びる群れもいて、酒井さんは「こんな幸せな暮らしはないです」と笑顔でおっしゃいました。人と羊が家族のように暮らすここの羊は、なんと洞爺湖サミットのディナーで提供されたほどの評価を誇ります。

 今回の牧場訪問は畜産技術協会による「めん羊と山羊(ヤギ)の多様な利活用検討事業」の現地調査でした。日本には昭和30年代、羊が100万頭、山羊が70万頭いたのをピークに、今ではどちらも2万頭弱に減少しました。山羊も羊も農業政策からこぼれ落ち、両方まとめて“マイナー家畜”と分類されているのです。そんな中、私は山羊と羊の静かな巻き返しの時代を感じています。

 雄大な牧場で伸び伸びと草を食(は)む羊たちの群れは北海道そのものです。また島の風に吹かれて山羊のいる風景も沖縄そのものです。

 何でも右へ習えでよそと同じより、個性的で多様な考えがある方が社会は豊かです。せっかく旅をしても、同じ風景や同じ食べ物ではつまらないですよね。風土にあった暮らし、小さな営みの集合がしなやかな地域文化を生み出します。北海道の羊文化と沖縄の山羊文化の根底には、きっと手を取り合える共通点があるはずです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)