Vol.3 延命治療 あなたはどう考える? 新しい学びと入試改革に対応するMANALAB★


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治る見込みがないとき、どんな医療を受けたいですか?
~国民意識調査から~

 終末期医療に関する国民の認識やニーズを把握しようと厚生労働省の有識者会議「終末期医療に関する意識調査等検討委員会」は2013年に調査を実施しました。

 末期がんや認知症、心臓病など6つの具体例を示して、どんな医療を望むか尋ねました。その中から、末期がんと認知症の調査結果を見てみましょう。(治療内容については一般市民の結果だけを掲載)

 もしあなたが以下のような病状になった場合、どのような医療を希望しますか。

1.末期がんと診断され、状態は悪化し、今は食事が取りにくい、呼吸が苦しいといった状態です。しかし、痛みはなく、意識や判断力は健康な時と同様に保たれています。医師は「回復の見込みはなく、徐々にあるいは急に死に至る」と判断しています。どこで過ごしたいですか。どんな治療を望みますか。

 どこで過ごしたいか?の質問には一般市民では「医療機関」と答えた人が47・3%と最も多く、次いで「居宅」(自分の家)が37・4%でした。それに対し、医療従事者や介護職員は居宅で過ごしたいと答えた人が最も多いという結果となりました。

 望む医療では、抗生剤の投与や口から水が飲めなくなった場合の点滴は6割近くの人が望みましたが、口から十分な栄養を取れなくなった場合、首などから太い血管に栄養剤を点滴する「中心静脈栄養」が18・8%、鼻から管を入れて流動食を入れる「経鼻栄養」は12・7%、人工呼吸器の装着は11・1%、手術で胃に穴を開けて直接管を取り付け、流動食を入れる「胃ろう」は7・9%にとどまりました。

2.認知症が進行し、自分の居場所や家族の顔が分からず、食事や着替え、トイレなど身の回りのことに手助けが必要な状態で、かなり衰弱が進んできました。医師は「回復の見込みはなく、徐々にあるいは急に肺炎などで死に至る」と判断しています。どこで過ごしたいですか。どんな治療を望みますか。

 過ごしたい場所については、一般国民は「介護施設」で過ごすことを希望した人が59・2%、次いで「医療機関」が26・8%で、居宅が11・8%でした。医療従事者、介護従事者でも「介護施設」で過ごすことを希望した人が最も多かったですが、次に多かったのは「居宅」と、一般国民と違いが出ました。

 どんな医療を望むか?は抗生剤の服用や点滴は半数近くの人が望みますが、心臓マッサージ、心臓への電気ショックなどの心肺蘇生、中心静脈栄養、経鼻栄養、人工呼吸器の使用を望む人は約1割にとどまりました。胃ろうを望む人は5・8%でした。

プレビュー
キーワード

 

救急搬送

 急病人ら救急患者を病院に運ぶこと。主に救急車で運ぶことを指す。沖縄県の救急医療体制は救急車が病院側に受け入れ要請をしたときに断られることがほとんどなく、全国的に見ても充実していると言われている。

満床

 病院のベッドが全て埋まること。各病院にはベッドの数が決められており、ベッドの数以上の患者を受け入れることはできない。

 

老人保健施設

 病状が安定しており、入院して治療を受ける必要はない高齢者が、リハビリを中心に医療や看護・介護を受けることのできる施設。高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指す。費用は介護保険の給付と自己負担で賄われる。自宅で生活ができるようになるまでの間、一時的に入ることができる。

みとり

 人生の最期、死にゆく時を見守ること。もともとは、病人のそばにいて世話をすることを意味する。最近は高齢社会やがん患者らの緩和ケアの注目の高まりもあり、病気になった本人や家族の希望で自宅で死を迎えるみとりが増えている。

 

終末期

 病気が治る可能性がなく、数週間~半年程度で死を迎えるだろうと予想される時期。ターミナル期ともいわれる。高齢社会・多死社会を迎えた日本では、本人や家族の意思により延命治療やみとりをどうするかなど、医療や死に関する方針を個人や医療・福祉の関係者らで話し合う必要性が重要視されている。

延命治療

 回復の見込みがなく、死期が迫っている患者への生命維持のための医療行為をいう。自分で呼吸ができなくなったときに肺に酸素を送って呼吸を助ける「人工呼吸器」の装着、心臓が止まったときの心臓マッサージ、血圧を上昇させる薬剤の投与、水分や栄養の点滴などがある。

 日本救急医学会の指針は、救急患者が「終末期」になった場合の中止を容認。医師の独断ではなく医療チームでの対応を求め、具体的な中止方法として(1)人工呼吸器や人工心肺(装置)などを中止または取り外す(2)人工透析や血液浄化を行わない(3)呼吸器の設定や昇圧剤の投与量などを変更(4)水分や栄養の補給を制限するか中止する―としている。

 

事前指示書

自分が判断できなくなった場合に備えて、どのような医療を受けたいか、受けたくないかなどを記した書面。

胃ろう

 口から食べられなくなった時に、胃に穴を開け、直接栄養を流し込むこと。チューブなどを通して栄養を入れる。口から食事ができなくなった時が寿命という考えが一般的な欧米に比べ、日本は胃ろうの実施が多いとされる。さらに沖縄県は胃ろう造設率が全国一高い。

 

尊厳死と安楽死

 延命措置を行わず、自然死を迎えることを「尊厳死」と言う。これに対し、「安楽死」は医師ら第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めること。どちらも「不治で末期」「本人の意思による」という共通項はあるが、「命を積極的に絶つ行為」の有無が決定的に違う。日本では安楽死は犯罪になる。ただ一定の要件を備えれば違法性を阻却できるという司法判断は出ている。山内事件の名古屋高裁判決(1962年)の安楽死6要件や、東海大付属病院事件の横浜地裁判決(1995年)の4要件。

 

死ぬ権利

 病気が治る見込みのない人が人工呼吸器の装着や胃ろう、投薬など生きる時間を長くするための延命治療を拒み、死を選ぶ権利のこと。フランスやアメリカの一部の州などでは、死ぬ権利が合法化されており、患者本人や家族の意志を確認した上で、医師が処方した薬で死を迎える事例もある。

倫理的

 行動やその姿勢・態度などについて「こうすべき」「あるべきである」などと普遍的に適用される価値観。

 

道義的

 人として「ふみ行うべき」「正しい」とされる価値観。

もっと深く、広く知る

 「延命治療 あなたはどう考える?」に関する状況や課題をもっと広い視野で捉えてみましょう。過去のニュースもあるので、現在の状況を調べたり、日頃の生活で社会をよーく観察したりしてください。新たな課題、解決策が見えてくるかもしれません。

 

救急搬送患者の延命中止36%
「終末期」で医師提案

 

コラム「南風」
終末期における「もう一つの物語」

 

プレビューを使ってチャレンジ

★ 自分の意見をノートにまとめる
★ 小論文を800字以内で書いてみる
★ グループディスカッションやディベートの題材に使ってみる
★ 各テーマの課題を解決する提案をプレゼンテーションにして、発表する

 使い方

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