「上カラ着るシャツは、こどもガは取れない」「出来て当たり前サー」「海にガ近いから、道カラ歩いて来た」「すぐ来るハズ」「当たり前サー」「もう行きましょうネー」「魚が釣れヨッタ」などの言葉使い、つまりウチナーヤマトゥグチについて考察した博士論文である。
ウチナーヤマトゥグチとは、「共通語に(沖縄)方言が干渉したことで生まれたことば」である。われわれ沖縄人が、共通語として使っているが、その使い方や意味合いが、共通語とは微妙に隔たりがある。本書は、その特徴が色濃く表れる「助詞」について、豊見城市上田と石垣市方言を世代別の話者から蒐集(しゅうしゅう)・分析し、ウチナーヤマトゥグチの学問的問題点を提示する。
助詞とは、最初に挙げた文章のカタカナの部分。例えばウチナーヤマトゥグチの格助詞「カラ」は、形態的には共通語の「から」と同じだが、意味としては共通語の格助詞「で」「を」にも対応している。「自転車カラ来た」「道カラ歩いている」というふうに。こういう言い方は共通語にはない。
なぜそうなるのかというと、そもそも伝統的方言の格助詞「kara」が、「で」「を」に対応する用法を持っていて、その形態と用法を共通語に取り込んだ(干渉した)結果、ウチナーヤマトゥグチ「カラ」が現れた、という。その根底に伝統的方言の「ウチ・ソト意識」が働いている。
伝統的方言「kara」が対応していない格助詞「に」にも「カラ」が対応する、伝統方言を基盤としないウチナーヤマトゥグチ「上カラ着る」というような新しい用法も登場してきた。ウチナーヤマトゥグチの用法は、地域差も世代差もある。ウチナーヤマトゥグチ研究は、これからが重要だハズネー。
本書は研究書なので気軽に読むにはハードルが高い。しかし常々ウチナーヤマトゥグチこそが母語だと感じていた僕は、自分の言葉遣いを味わい直すことができて、実に面白かった。なにより「カラ」「ハズ」「サー」「ネー」「~シヨッタ」について、日々一生所懸命考えている人たちがいる、というだけでも、少しうれしくなるのである。(新城和博・ボーダーインク編集長)
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ざやす・ひろふみ 1987年生まれ。豊見城市出身。國學院大學大学院文学研究科博士後期課程修了。文学博士。現在、國學院大學大学院特別研究員。