「はいたいコラム」 和食を守る醤油蔵


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 小豆島にある醤油(しょうゆ)蔵を訪ねました。瀬戸内海の塩に恵まれ、海運の拠点でもあった小豆島は昔から醤油づくりが盛んで、今も木桶(おけ)仕込みの蔵、大小20軒近くが残っています。そのうち国の登録有形文化財に指定されているヤマロク醤油は創業150年の歴史を誇ります。

 5代目の山本康夫さん(44)は、この蔵に棲(す)み着いた菌が醤油を醸(かも)すため、仕込みには杉の「木桶」が欠かせないと話してくれました。康夫社長の方針で蔵の見学は自由かつ無料。その日わたしたちのほかにもアジアからの観光客が3人いましたが、社員さんが丁寧に案内していました。ヤマロク醤油は“木桶の語り部”として、世界に伝えるべき使命があるのです。

 蔵に並ぶ木桶は全部で66。全て微妙に味が異なり、特に入り口近くにある二つの桶の醤油が、競うように味がよくなっているのだとか。一体どういうことでしょう?

 「お客さんに見られると、菌が頑張るんです。活性化してどんどんおいしくなる」。何と! 女優は見られて美しくなると言いますが、菌も頑張るんですね~。わたしは共感しました。人に見てもらうとやる気が出て成績が向上する。逆に、見てもらえないとついついサボる。菌も人も同じではないですか~。

 そうして生きた菌を励まし育てるヤマロク醤油ですが、大手醤油メーカーではステンレス製などのタンクに切り替わり、木桶仕込みの醤油はわずか1%。全国に残る木桶のうち3分の1に当たる千以上が小豆島に集中しています。

 ところが! 肝心な木桶を作る職人は、いまや大阪の製桶所1軒のみで、高齢で後継者もいません。杉の木桶は100年単位で長持ちするため、新規の発注がなく消えゆく産業でした。それを知った康夫社長! 子や孫の代に木桶をなくしてはいけないと、自ら弟子入りして技を習い新桶づくりを始めたのです。木桶の存続は「和食」の継承につながります。「木桶職人復活プロジェクト」を仲間と立ち上げ、世界中に木桶文化を発信しています。

 ところでヤマロク醤油には、自社特製のラフテーがあります。実は妻の真由美さんは沖縄出身! 本場の味恋しさから生まれた商品なのだそう。木桶仕込みの醤油は島から島へ家族の味を伝えるツールでもあったのですね。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)