「はいたいコラム」 見知らぬ旅人だから歓迎


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! モンゴルへ行ってきました。ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤク、ラクダという6種類の家畜と暮らす遊牧民と、その乳文化を訪ねる「ミルク1万年の会」の旅に同行しました。

 ウランバートルから西へ700キロ、草原、山道、川の中まで車でジャブジャブ進むワイルドなキャラバンで、道中は大地で用を足し「ああ、いま私の体を通して食べものは大地に還(かえ)ったのだ~!」ってことを実感しました。

 2日間かけてたどり着いたアルハンガイ県のテルヒーン・ツァガン湖一帯は、とりわけ遊牧が盛んな地域。標高2000メートル、湖畔の眺めは美しく、人気の観光地でもあります。

 人生初のゲル体験! モンゴルの景勝地には夏の間のツーリストキャンプが各地にあり、観光客がゲルでの宿泊を楽しめます。3泊したうちの一つは広さ12畳、中央にはテーブルとストーブ、周りにベッドが五つ並び、電気まで完備したゲルが30棟連なります。食堂やシャワー棟もあり、朝晩の冷え込みも羊毛フェルトのテントに包まれて、暖かく過ごしました。

 朝は早起きしてヤクの搾乳の見学です。寒い高原では乳脂肪の多いヤクが重宝します。子畜にある程度飲ませてから後半を人がもらう“人と家畜の共生”の搾乳法で、乳製品はヨーグルト、チーズ、バターのほか発酵や工程により40種類あるともいわれます。中でも貴重な「ウルム」というクリーム状の乳製品は、ほわっと柔らかく乳の脂肪が凝縮した豊かな味わいでした。

 ゲルを訪ねて感動したのは、よその国から来た私たち一行を、どの遊牧民も歓迎してくれたことです。後で調べると、モンゴルの遊牧文化における家畜の群れは動く食料庫、いざというときの食料安全保障であり、野営は陣地でもあります。彼方(かなた)からの来訪者がどんな情報や知識をもたらしてくれるのか。平和になった今でもよその情勢を知らせる使いとして歓待する風習が残っているそうです。

 21世紀最大の産業は観光です。世界中の人が旅する時代、日本でも「農泊」に力を入れ始めていますが、農家に泊めればよいというものではありません。見知らぬ旅人だからこそ歓待し、文化や情報を積極的に学ぶ遊牧の人々に習うことは多そうです。いつの時代も生き残るには情報戦だということです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)