多くの人が行き交う那覇市牧志から壺屋のマチグヮー(市場)周辺には近年、コーヒー店が増えている。なは市場振興会によると、過去2年で少なくとも6店舗増えた。豆や入れ方、アレンジにこだわる個性的な店ばかり。「人が歩く路地裏」に魅せられた店主たちは「市場周辺をコーヒーの聖地にしたい」と、静かな野望を燃やしている。
公設市場向かいの「ザ・コーヒースタンド」。5畳ほどの狭い店内には、市場の店員から観光客まで来客が絶えない。店主の上原司さん(45)が「歩いている人が多い場所で店をやりたい」との思いで、小禄から市場周辺に移転したのは6年前だ。今ではすっかり定着し、近くの店から配達の注文を受けることも。公設市場前の健康食品店からアイスコーヒーを注文した比嘉房江さんは「とてもおいしい。お店のお兄さんが誠実で好き」と絶賛した。
豆は風味豊かで生産国で栽培管理、生産処理が適正に行われたと認められた豆「スペシャルティコーヒー」のみにこだわる。上原さんは「味がいいから、たくさんの人に知ってほしい」と笑顔で語った。
むつみ橋通りから開南側にあるパラソル通り。トタン屋根のアーケードの下で2坪の小さなお店「カフェ パラソル」を営むのは、棚原ジャンさん(61)。「人と人が関わり合う匂いがあったから」とこの場所に決めた思いを語る。
退職後に関東から沖縄に帰郷し、2年前に開店。今では誰の話にも優しく耳を傾ける棚原さんの人柄と、オリジナルの黒糖カフェラテやコーヒー酒などが評判だ。
ミシン屋に骨董屋。小さな専門店が続く市場と浮島通りをつなぐ壺屋の路地裏には、2年前に宜野湾市から「MAHOU COFFEE」が移転した。店主の山嵜(やまざき)明央さん(36)は「古くて新しい、人がよく歩く壺屋の街」を気に入ったと言う。
店では「ここでしか飲めないコーヒー」を目指し“淹(い)れ手”のスペシャリストとして抽出の技術を洗練させている。「淹れ手の個性も加わると新たな選択肢が広がる」と山嵜さん。近くで個性的なコーヒー店が増えていることに「お客さんの選択肢が増えて街のいい循環ができる」と柔らかな笑顔で語った。(田吹遥子)