<“学力向上”の現場>上 授業改善遠く


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◆目標値へ過去問、補習 教員疲弊「意味がない」

校内を移動する生徒たち=本島内の中学校(記事と写真は関係ありません)

 「県内は毎年成績が上がっており、指導が実を結んでいる。沖縄はまだまだ伸びる」―。本島中部の小学校校長は、満足そうに笑みを浮かべた。一方、教員らは日々、本来の目的である「授業改善」とは関係のない業務に追われ、疲労が限界に達している。

 本島中部のある小学校では、管理者から提示される学力テストの「目標値」に向けて、担当学年以外の教員も総出で取り組む。6年生は、学力テストの過去問題に似せた計算プリントを、授業が始まる前までに解く。6校時が終わると息をつく間もなく、補習授業だ。担当学年以外の教員も、プリントの採点や、ほかの学年の児童が補習の邪魔にならないよう見回りをする。ある女性教諭は「通常業務もあって本当にきつい。だがそれを言える雰囲気ではない」と漏らす。「児童のためと言われればやらざるを得ないが、正直、やりすぎではないかと思う」と吐露した。

 小学校と比べて全国との平均正答率の差が目立つ中学校。那覇地区の中学校の教諭は「順位ばかりに関心が寄せられるが、正答率は毎年上がっているし、点数も悪くない」と周囲の見方に異義を唱えた。中部の中学校の国語科教諭は、学力テストと校内の定期テストでは傾向が異なることを指摘する。「普段の授業のみで学力テストの点数を上げるのは難しいが、学力向上だけなら授業で十分だ」と語る。学テの点数や順位に周囲が振り回される状況について「意味がない。県内の点数も、悪い点数ではない」ときっぱりと語った。

 中学生は、部活動の忙しさや思春期特有の人間関係の悩みなどもあり、小学生とは異なる発達段階に突入する。別の中学校の教諭は「高校受験も控えている。直接個人の成績に反映されない学テ対策のために、生徒を放課後残すことはできない」と話した。自身も放課後は不登校生徒への対応や生徒指導などがあるために教材研究ができず、家に持ち帰る。「学テどころではない」と明かした。

 小学校、中学校ともに学力テストは結果を受けて「授業改善」に生かすことが本来の趣旨だ。しかし、小学校では学テ対策、中学校では生徒指導や部活指導に追われ、教諭からは「授業のみに集中することは厳しい」との本音が聞こえる。ある教諭は「生活面も含め、学校への期待が大きすぎる。もっと家庭や地域で役割が分担されれば、教員は、学力向上に向けた授業に取り組める」と強調した。(新垣若菜)