「はいたいコラム」 ワラとカツオでESG投資


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 台風お見舞い申し上げます。私のふるさとも今まさに台風真っただ中の高知県西南部、幡多(はた)郡黒潮町です。先日、その隣の四万十市へ行ってきました。清流四万十川にかかる沈下橋は、増水時に沈むことを前提に設計された一本橋。気候風土に溶け込んだ様式美をたたえています。

 NHKEテレで「介護百人一首」という番組の司会を務めていることから介護講演に招かれたのですが、いつもと違うのは、企画してくれた人も、市役所の担当者もみんな私と同じ中村高校の卒業生だったということです。講演会場に並んだ懐かしい顔触れに感慨はひとしお。30年近い歳月の隔たりに同級生たちは、昔と変わらない幡多弁で迎え入れてくれました。

 翌日、黒潮町の実家へ帰省し、稲刈りを終えたという田んぼを見にいくと、今どき珍しい稲わらが並べてあります。最近は刈り取りと同時に土に漉(す)き込む方法が多いので「このわら何に使うの?」と父に聞くと、「わら焼きや」と当たり前のように言われ、私はハッとしました。黒潮町といえば、カツオのわら焼きで知られる港町です。うちは山間部ですが、たたきを炙(あぶ)るときに欠かせない稲わらを、自家生産または地域内連携で調達しているのです。これぞ里山資本です。私は日本全国の農村を訪ねて、地域の資源やご当地の宝を取材していますが、地域の強みやカッコよさは、自分のふるさとにあったのかと思いました。

 経済の世界では、ESG投資といって、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮する企業に投資することが社会をよくするとして、国連の取り決めにもなり、注目されています。

 資本をマネーから稲わらとカツオに換えれば、カツオ漁の水産会社と地元農業は、お互い最良のESG投資になるのです。米づくりの副産物の活用は、サスティナブル(持続可能)であり、「森は海の恋人」の象徴ともいえます。農業と水産業のコラボの意義を知り、私は地元の田んぼを見直し、尊敬しました。

 郷土愛とは、地域への誇りです。幼いころ遊んだ川や田んぼ、友達、ふるさとが人の心を形成します。地域、家族、身近な産業同士が仲良くすることが、実は地元活性化の原動力になると確認した幡多路の旅でした。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)