誰のための政治か 権力者の「差別」発言 国民全体で向き合う時


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 トランプ米大統領が集会の演説やツイッターで「暴言」を繰り返している。ついにその矛先は、米国のプロスポーツ界に及んだ。

 22日に南部アラバマ州で開かれた集会。トランプ氏は、試合前の国歌演奏で人種差別への抗議の意を表する米プロフットボールNFLの選手について汚い言葉で非難し、「われわれの国旗を侮辱した選手に、NFLのオーナーたちが『フィールドから出て行け、くそ野郎。クビだ、お前はクビだ!』と言うのを見たくないか」と訴えた。

 NFLでは、人種差別や警察による暴力に対する抗議として、サンフランシスコ49ersのクォーターバック(QB)だったコリン・キャパニックが起立拒否したことを皮切りに、黒人選手を中心に昨年から抵抗運動が続いている。

 「暴言」については、日本の麻生太郎副総理もトランプ氏に劣らない。23日の講演で、北朝鮮で有事が起これば難民が押し寄せる可能性に言及し「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えた方がいい」と語った。「ヒトラー発言」で批判を受け、撤回したばかりだというのに、だ。

 品位や人権感覚のかけらもない言葉、暴力やヘイトを助長する言葉、対話ではなく、緊張を高める扇動的な言葉。分断や差別を生む言葉を繰り返す政治家に「誰のための政治をしているのだろう」と憤る。

 何のために、誰のために―。日々の仕事で自分自身に、そして取材相手らに問い掛けることがある。

 外交に携わる日本政府関係者は「最後は自分のためでしょう」と答えた。日本メディアの記者は「米国の記者だってホワイトハウスの記者会見場で自分のアピールに余念がないよ」と、政府関係者の言葉を擁護するように答えた。残念ながら、権力側にいると「誰のため」の仕事なのかという倫理観や想像力が欠如していくようだ。

 NFLはトランプ氏の発言に対して毅然(きぜん)とした態度を示した。選手をはじめ、全ての人々の表現の自由や権利に敬意を表し、「NFLと選手たちはこの国と文化の結束を築くためベストな状態だ」という声明を発表した。

 都合の悪い情報は隠す、言い換える、政府の方針に従わなければ、民衆の声を聞かずに強行する。そんな権力側の言葉や行為に、沖縄は向き合ってきた。分断や差別、偏見を生み出す政治にどう声を上げていくか。日本も米国も、国民全体で向き合う時が来ているのではないか。