「はいたいコラム」 ひよっこが教えたこと


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 島んちゅの皆さん、はいたい~!NHKの朝ドラ「ひよっこ」が、終わってしまいました。主人公みね子の茨城弁が聞けないのは寂しいですが、ひよっこロスと嘆いてばかりもいられません。ドラマの舞台は戦後の復興から高度経済成長へ、日本が右肩上がりに発展を遂げる時代ですが、それを支えた地方の人たちは何を大切にし、何を失い、どう生きたのか。改めてひよっこについて考えてみました。

 行方不明になったみね子の父、実を捜しに東京へ来た妻の美代子は、警察署でこう言いました。

 「イバラギじゃなくてイバラキです。谷田部実といいます。私は、出稼ぎ労働者を捜してくれと頼んでいるのではありません。ちゃんと名前があります。」

 出稼ぎや集団就職で都市へ流れ込んだ地方の人々に、どこまで人権が保障されていたかは疑問です。ただ、そこには希望がありました。都会で働けばお金が稼げる。そういう時代でした。その後、記憶喪失となって見つかった実が村へ帰るバスの中では、車掌さんが「ワンマンバスになるから車掌の仕事はもう終わりだ」と話します。券を売るだけでなく、ちょっとした会話で乗客とコミュニケーションを取ってきたバスの車掌という職業はコンピューターにとって代わられ、この世から消えたのでした。

 最終回で印象的だったのは、みね子の結婚に伯父の宗男さんが叫ぶシーンです。「勝ったんだ。悲しい出来事に幸せな出会いが勝ったんだ。人間は強いどー」。これは私には、地方出身者が東京という都会に屈しなかった。俺たちは負けないぞという宣言に聞こえて仕方ありませんでした。NHKが今なぜひよっこを制作したのか。一つは、この国の人口減少問題の検証なのではないでしょうか。都市への人口集中による地方の衰退、その先の消滅可能性の問題は、言い換えれば担い手不足、労働力不足です。これから大勢の人がよその国から入ってくる構図は、かつての都市と農村の関係にも似ています。ひよっこに登場する洋食店すずふり亭の女将(おかみ)さんは言いました。「東京を嫌いにならないでね」。相手に好きになってもらうには何をすべきか。“東京”は他の言葉にも置き換えられます。農業でも介護でもどんな仕事でも賃金は必要ですが、働いてくれる人に対する敬意は何よりも重要です。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)