「はいたいコラム」 モンゴルで見た羊の解体


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 夏に訪ねたモンゴルの旅で最も印象的だったのは、遊牧民一家が歓迎の印に見せてくれた、それは見事な羊の解体でした。

 ゲルの主(あるじ)は草原の上で、3歳の去勢羊の足をつかんであおむけにし、ナイフでおなかを切開したかと思うと、瞬く間に素手を入れて大動脈を指でちぎり、心臓だけを取り出しました。一滴の血も出さず、羊は息を引き取りました。

 その後、主人はナイフ1本で皮をはぎ、皮と身の間ににぎりこぶしを押し込んで、きれいに剥いでいきます(イカの皮むきを思い出しました)。モンゴルでは大地を汚さないよう一滴たりとも地面に血を落としません。剥いだ皮を敷物のように広げ、内臓はバットへ、血は茶わんですくってバケツに集めて腸詰めに。20分余り、ほぼ全ての解体を主が一人でこなしました。奥さんたちは胃の内容物を洗ったり、長い腸をしごいてまとめたり、役割分担も見事でした。1本のナイフとこぶしを最良の道具に、実に無駄のない美しい仕事でした。

 一般に私たちは命が食べ物に変わる瞬間を見ることはありません。それは言い換えれば、お肉とは何か、動物の肉を食べるとはどういうことなのか、考えるチャンスがないということです。

 日本人の目に見えにくくなった食と命の関係が、モンゴルでは、家長の腕の見せどころとして披露されていました。心臓が止まる瞬間を見届け、一滴の血も無駄にせずに頂く方法は、命への感謝と敬意にほかなりません。その姿からは屠殺(とさつ)というよりも、命を無駄にせず、全部生かすんだという気概が感じ取れました。

 解体の後、奥さんは人が食べない部分を犬にあげ、羊の胃に入っていたペースト状になった草を大地に返しました。もてなしてくれたホルホッグという羊の蒸し焼きは、塩だけのシンプルな味付けで、お肉の新鮮さを物語ります。命が目に見える範囲で受け継がれていくこと以上に健全な食があるでしょうか。大地とつながり、家畜とともに生きる人々に学ぶことはたくさんあります。

 ところで皆さん、沖縄にもモンゴルに通じる島がありました! 日本最西端の与那国島はまさに馬、ヤギ、牛と人が共生する島! 先週2泊3日の一人旅をしました。次回は与那国馬のお話です~!

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)