「はいたいコラム」 本当の日本はどこにある


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 島んちゅのみなさん、はいたい~! 地球上で最も緑茶を愛するシ・ティー宣言をしている静岡県島田市。市内から車で1時間、いくつも峠を越えて行くと、茶園の広がる川根町笹間地区があります。

 人口400人。この小さな山あいの集落で2年に1度、来場者4000人を超える国際陶芸祭が開催されているのです。きっかけは10年以上前、海外でも活躍する愛知県瀬戸市の陶芸家、道川省三さんを地元小学校の講師に招いて、陶芸体験教室を開いたことでした。そのとき初めて笹間を見た道川さんは、いかにも静岡らしい茶園景観に感動し、世界じゅうの陶芸家の友達を招いて催しができないかと、6年前から「ささま国際陶芸祭」を始めたのです。

 私が驚いたのは、笹間には陶芸の縁もゆかりもなかったということです。思わず尋ねると、陶芸祭実行委員会会長として地域を引っ張ってきた北島享さん(76)は、「陶芸に関係のない町だったからよかったみたいなんです。しがらみがないので自由に新しいことがやれたんです」

 なるほど~!地域資源とは何か?私たちはとかく歴史や偉人、遺産に頼りがちですが、笹間に国際陶芸祭が生まれたのは、歴史がなかったからです。言い換えればそれは、どんな夢も邪魔されない自由な場を持っていたということです。そして何より、外からやって来た陶芸家を友として手をつなぎ、実現に向けて走ってきた信頼と絆という新たな宝を生み出したのです。

 さらにこの縁により、フランス人の陶芸家の卵、ジョセフィン・マリノさん(23)が、今年6月から笹間に移住して創作活動を始めました。笹間のよさを聞くと、「自然の中や茶園の間を散歩するとリラックスできて、創作に向いている。ここの暮らしは、お茶もしいたけも味噌も野菜もイスも本棚までみんなハンドメイド。これほどリッチなカルチャーはない」と話してくれました。そして、「日本の都市にもあちこち行ったけれど、リアルジャパンはここにある」と言い切ったのを聞いて私は、泣きたいような気持ちになりました。

 本当の日本はここにある。地域で自立して物を創り、自然に感謝する暮らしこそ美しい。人は本来、みんな創造性を持っています。そのスキルや個性は、小さな島や村の方が発揮しやすいのではないでしょうか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)