「はいたいコラム」 太陽は仕事仲間


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 北海道中標津町の酪農のカリスマ!三友盛行さん(72)のお話を聞いてきました。三友さんは牧草地の面積に見合う頭数だけ牛を放牧する「マイペース酪農」を提唱する酪農家で、同名の著作をお持ちです。現在、三友牧場の搾乳牛は30頭。何千頭規模のメガファームもある北海道で、なぜこの小さな牧場主がカリスマと呼ばれるのでしょう。答えはズバリ優良経営! 放牧なので購入飼料は使わず、設備投資も極力控える方法で、他の牧場を圧倒する利益率を上げているのです。

 酪農教室が開かれた茨城の新利根牧場で三友さんは、牛たちの体型から健康状態を読み取り、草地に点在する牛糞(ふん)の分解度合いから微生物の働きを推察し、生き物の声を人間の言葉に変えて解説してくれました。中でも私が感動したのは、三友さんが太陽のことを何度も「太陽さん」と呼んだことです。

 牧場内の「土、草、牛」の生命循環に太陽光は欠かせません。太陽は牧場経営にとって、日照・乾燥部門を請け負う「仕事仲間」なのです。私たちが取引先の社名をさん付けで呼ぶように、放牧酪農家は太陽を呼び捨てにせず、敬意を払って呼ぶのでした。

 取引先が太陽さんだなんて、すてきじゃありませんか。おおらかで太っ腹で明るい太陽さんは、納品が遅れることも、他社に乗り換えることもないどころか、請求書もありません。ときどき連絡なく引きこもることはありますが、そのときは雨さんが別の恵みを牧場にもたらします。

 三友さんいわく、太陽さんによく働いてもらえるようにするのが人間の仕事。雨を恨まず恵みの雨にするために人の仕事はあるとのことでした。予定を前倒しして次の草の種まきを終えてさえいれば、降る雨は恵みになります。管理できない自然界の力を最大限生かせるよう段取りすることが、人間に残された仕事。そうすれば土も草も牛も、みんな生き生き、健やかに成長します。

 マイペース酪農とは、みんなが力を発揮し合うサステイナブルな連携! 持続可能な生産と消費が求められる時代、これはあらゆる仕事や人間関係に共通した考えです。仲間が力を発揮しやすいように私はどれだけ努力できているか。少なくとも締め切りを守らなくちゃ。琉球新報さ~ん、いつもありがとう~!

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)