『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』 悲しみ共有し想像力育む


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『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』平井美津子著 高文研・1620円

 「教えるとは未来をともに語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」というアラゴンのことばが読後に浮かぶ。子どもたちが「慰安婦」問題を語ることばを獲得していくプロセスの中に、子どもたちに迫ることばとは何か、心に届く論理とは何かを問う授業実践の姿がある。

 平井さん個人を知るものとしては、その人間的魅力がどこから来ているのか、生徒を引き付ける力とは何かが分かるような気がする。それは事実と真実を追究する人間の真摯(しんし)さである。フィンランドでは教師に対して敬意を込めて“国民のロウソク”と呼んでいたと聞く。サーチライトのように行くべき道を照らし誘導するのではなく、国民の足元を優しい灯で照らし、その歩みは自らが判断し、揺らぎながら自らの道を進む、そうした関わり方が平井実践にはある。

 「〈従軍慰安婦〉この言葉を聞くと悲しくなる」。生徒の中に生まれた人間の悲しみを共有するまっとうな感性と歴史を見抜く確かな知性に教育のちからを感じる。「慰安婦」問題を通して、沖縄問題にも関心は広げられていく。社会の現実と人間に関する学びは次々と悲しみを共有し、想像力をはぐくんでいく。教育のテーマとはそうした発展のし方をしていくものであると思う。

 教師には不正や弾圧に屈しない勇気が問われる局面があり、真理に対して忠実を貫くことが求められるときがある。著者が卒業式の日に担任の生徒たちに送った一文字が「抗」である。いま教育実践には、抗(あらが)うという誠実な姿勢がなければ真実は語れない。その決意が本書にある。

 本書の特徴は、第1に子どもたちに届くことばとは何かを実践的に示し、第2に教師の教師たる魅力とは何かが全体を貫いており、第3として子どもとともに考える実践の関わり方が具体的に述べられている。重たい課題に論究した著書ではあるが、さわやかな平井実践が肩をポンとたたいているような思いがしたのは私だけではなかろう。教師だけでなく、誠実に社会の現実を考え、歴史をゆがめる者たちに立ち向かう人々にぜひ読んでもらいたい1冊である。(浅井春夫・立教大学名誉教授)

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 ひらい・みつこ 1960年大阪市生まれ。子どもと教科書大阪ネット21事務局長、立命館大学非常勤講師。専門はアジア太平洋戦争下における日本軍「慰安婦」、沖縄戦研究。書著に「教育勅語と道徳教育-なぜ、今なのか-」など。

 

「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか
平井 美津子
高文研
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