潜水マスク「旭面」復刻 沖縄・浜比嘉の漁師「モズク漁続けられる」


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杉浦武さん(中央)から旭面を受け取った(左から)野原隆光さん、新里和信さん、新里清信さん、宮下政也さん=29日、うるま市浜比嘉島の浜漁港

 【中部】日本人が発明した世界初の潜水マスクとされ、現在は既に生産を終了している「旭面(あさひめん)」の復刻に、沖縄県嘉手納町でダイビング専門店を営む杉浦武さん(51)がこのほど、成功した。長年、愛用してきたモズク漁師の強い要望に応える形で、4年がかりで完成させた。29日、依頼したうるま市浜比嘉島の新里清信さん(70)、宮下政也さん(33)らに届けられた。新里さんは「これまで持っていた面は壊れ、修理も限界で困っていた。これで漁が続けられる」と、真新しい旭面を片手に、杉浦さんと固い握手を交わした。

 危険も伴う漁に出るには、使い慣れた道具がどうしても必要だというウミンチュのこだわりに、ものづくりへの熱情で応えた。最初は断ったという杉浦さんだが、工夫の詰まった旭面について調べるうちに「先人のものづくりから学ぶことがたくさんあった。人生の哲学まで掘り下げて考える機会になった」と達成感をにじませた。

 旭面は顔全面を覆う大きなマスクで視界が広く見えるのが特徴で、船上に延びる呼吸用のパイプとつながっている。海中でモズクの養殖網の間を縫って2~3時間潜り続ける新里さんらの必需品だった。

 生産が途絶える時に買いだめしたストックも尽き、壊れると継ぎはぎして何とか使ってきた。とうとう修理はきかなくなったが取り扱う店はどこにもなく、杉浦さんに頼み込んだ。

 杉浦さんによると、旭面の起源は大正時代に考案された「アサリ式マスク」で、戦後は東京都の「旭潜水研究所」が製作したことから「旭面」と呼ばれた。既に倒産し、作り方を知る人もいなかった。

 杉浦さんは金型を探すところから始めた。残されていた最後の一つの旭面を分解し、県外約20社の加工場を歩いて部品を作った。

 金型が完成してもゴム部分の製作など分からないことばかり。工場に通って企業秘密のゴム硬度を教えてもらった。顔に固定するストラップ部分は納得がいくまで9回やり直した。クラウドファンディングで資金も募ったが、必要な金額にほど遠く、本業の売り上げで工面したという。耐久性を向上させるよう材質も真ちゅうからステンレスに代えるなど改良を重ねた。

 新里さんは「今使っている面が使えなくなったら引退の覚悟を決めていた。これであと15年以上やりたい」と顔をくしゃくしゃにして笑った。

 杉浦さんの取り組みが報道されると他にも引き合いがあり、現在増産している。

 問い合わせは杉浦さん(電話)098(956)7791。
(清水柚里)