「はいたいコラム」 雪を生かす力


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 島んちゅのみなさん、はいたい?!1月22日、東京は数十年ぶりの大雪に見舞われ、都心の交通はパニックとなりました。ダイヤの乱れより、大勢の人々が帰宅を早めた結果、ラッシュが同時刻に集中し大混雑を招いたのです。もう少し個々の行動パターンを分散させることはできなかったのか。これは雪の害というよりも、“人口集中害”です。

 都会にいると、どうにも雪が悪者にされがちなのが気になります。「雪は天から送られた手紙である」。雪の結晶をロマンチックに表現したのは、世界初の人工雪を生んだ物理学者・中谷宇吉郎です。雪は歓迎されるものでもあるのです。昨年末、兵庫県神河町に全国で14年ぶりのスキー場が完成して話題になりました。来場客は1カ月で2万人を超え予想を上回る人気です。

 石川県金沢市には冬の雪を貯蔵し、真夏に江戸の徳川家まで運んだ「氷室」という伝統文化があります。新潟県上越地方には「雪室」でお米や日本酒、野菜などを雪中貯蔵する技術が今も生かされています。雪を恵みととらえる最たる産業は、農業ではないでしょうか。

 岩手県西和賀町は県下一の豪雪地帯ですが、積雪のおかげで土の温度が保たれ、太くトロっとした良質なわらびの産地として知られます。最近は農商工連携で山菜のわらびだけでなく、100%町内産のわらび粉を使ったわらび餅が誕生し、「ユキノチカラ」ブランドとして、雪国ならではの食文化を発信しています。

 西和賀町には「雪国文化研究所」なる機関があります。初代所長の故高橋喜平さんは、「自然現象である雪を邪魔者扱いしては、冬の暮らしは快適になりません。毎年降る雪と共存し、活用できるとしたら、これほど有効な資源はありません」と記しています。これぞ地域資源を生かした持続可能な暮らしです。自然現象を災いに終わらせず、恵みに変えるのが人間の知恵と仕事です。大雪、噴火、地震、台風そのほかさまざま。さてこの風土をどう生かそうか?その土地で「生きる力」とはクリエイティブにほかなりません。

 そういえば雪の翌朝、近所で雪だるまを見つけ、思わずほっこりしました。環境を憂えるのではなく、楽しむ力。子どもの頃には備わっていたのです。課題を活かして遊ぶ気概こそ、リスクマネジメントを強くするのではないでしょうか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)