「はいたいコラム」 生産者は自然の通訳者


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 2月25日、石垣市制70年を記念して石垣島の農水産物をPRする「いしがき食と農のフェスティバル」が開かれ、パネリストに招かれたのを機に石垣の農業をあちこち見てきました。

 日本一早い田植えをする大浜博彦さん(84)を訪ねると、本州では見かけかない250ミリリットル缶のコーラを手渡してくれました。今年の田植えは1週間遅れましたが、寒い年は豊作が期待できるそうで、青いトラクターに乗って代かきする様子やひとめぼれの田んぼを案内してもらいました。

 石垣の農業といえば、石垣牛です。JA石垣牛肥育部会理事で畜産日本一の天皇杯を受賞した、とー家ファーム司の多宇司さん(57)。海を望む牧草地に繁殖牛を放牧し、展望デッキを設け、天気のよい日には石垣牛バーガーなどのショップも開いています。潮風を受けた放牧地で牛の親子がのんびり過ごす景観は、人気の観光スポットになっています。石垣牛はこの景色から生まれるのか~。おいしい肉質にするために、種の血統を選び飼料を考えながら肥育するのはもちろんですが、ブランディングを考えるとき、こうした風景は欠かせません。

 レンタカーで石垣島を走っていると、サトウキビやパイナップル畑の間に、牛舎のパドックにたたずむ牛の姿を何度も見かけました。都会からやってきた旅人にとって、生き物のいる風景はそれだけで心が和みます。旅人の心を動かすのは、川平湾やマングローブ林といった名所だけではありません。道路沿いの畑や田んぼ、民家の赤瓦や庭の植生からも石垣らしさを感じとっているのです。

 ところで石垣には天皇杯受賞者がもう一人います。伊盛牧場の伊盛米俊さん(55)は、日本最南端、平均気温23度の地で酪農を営む技術を編み出し、6次産業化にも成功しています。ミルミル本舗でジェラートを食べながら海を眺めていると、売っているのは乳製品というよりも島と寄り添う生き方なのかもしれないなと思えました。

 生産者は地域の気候や環境から食べものを生み出す自然の通訳者です。土を耕し、恵みに変える農業、その生産者こそが石垣島の宝です。5万人の市に130万人が訪れる島の農業。外へ農産「物」を売り込むだけでなく、農という営み自体に光を当て、観光客を巻き込む体験型農業ツーリズムの可能性も感じました。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)