「はいたいコラム」 かわいいという力


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 島んちゅの皆さん、はいたい~! 全国的にヤギ人気が高まっています。岐阜県美濃加茂市では昨年、第19回全国山羊サミットが開かれ、生産者や畜産関係者、学校の先生からペットとしてヤギを飼う人まで280人が集まりました。 

 お隣の可児市の帷子公民館でも、除草のヤギが子どもたちや高齢者との触れ合いに役立っているという報告があり、館長の冨田清さんの言葉に私は胸を打たれました。

 「一人でも多くの子どもにヤギと触れ合い、好きになってもらいたい。なぜなら人は好きなもののことは傷つけないし、大切に守ろうとするから」

 都市における小さな農業、ヤギの可能性がこの言葉に集約されていると思いました。当初公民館では、除草能力を期待していましたが、始めてみるとそれ以上に教育や精神的な効果があり、それが今の地域社会において重要だとわかったのです。人懐っこく、かわいいヤギの特徴は人の心を動かす力です。畜産界のアイドルという売り方があってもよいのではないでしょうか。

 そのマーケットに狙いを定めている生産者が、なんと大宜味村にいました。金城輝さん(32)は、自宅の庭にヤギ小屋を作り、25匹を育てています。沖縄在来の島ヤギをメインに、小さいヤギ同士を自家交配して、ミニヤギを作ろうとしているのです。一般的な生産では大規模にかなわない。しかし全国的なペットや学校飼育におけるヤギ需要を知った金城さんは「ならば小さくて飼いやすいかわいいヤギを育てよう」と思い立ったのです。削蹄師と人工授精師の資格を持ち、現在は和牛繁殖牧場に勤めていますが、仕事で疲れて帰ってきても、ヤギを見ると癒やされ、なんと小屋で抱っこしながら寝てしまうこともあるそうです。ヤギと暮らすご本人が一番癒やされているのでした。まだ始めて2年ですが、いずれは都市部へ出荷すると同時に、大人から子どもまでヤギに触れ合えるセラピー牧場を作りたいと語ってくれました。

 家畜の中でもマイナーなヤギの、さらに本流とは真逆の方向に突っ走る金城さんが、頼もしく輝いて見えました。辺境は言い換えれば最前線のパイオニアです。スモールイズビューティフル。大きさより個性の時代、「小さなヤギ」は小さな国、小さな島に置き換えられるかもしれません。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)