民間機、迂回余儀なく 既存航路を廃止 国交省内でも異論 米軍空域拡大


この記事を書いた人 大森 茂夫

 沖縄周辺で米軍が訓練に使う空域が2015年12月の「臨時訓練空域」の新設によって大幅に拡大している件で、民間航空機が迂回(うかい)を余儀なくされていることが分かった。国土交通省の関係者は「既存の航路をつぶし、米軍が使う訓練空域を設けるのはあり得ない対応だと(臨時訓練空域の)設定時も内部で議論になった」と明らかにした。米軍の既存の訓練空域でも、那覇―上海間が大きく遠回りをしているほか、那覇発着の国内便でも細かな迂回が生じており、問題視されてきた。

 新たな臨時訓練空域はそれぞれ「TIGER(タイガー)」「MOOSE(ムース)」「EAGLE(イーグル)」などの名前が付いている。空中給油をする場所「EDIX」も付属している。15年12月10日に沖縄本島の東西に複数の地点で新設された。分類は「臨時」空域だが、航空関係者によると週末などを除いてほぼ毎日発令され、実質的に常設状態となっている。

 国交省はこれらの空域は「自衛隊臨時空域」と説明する。一方、米空軍嘉手納基地が作成した資料は、自らが使用する臨時訓練空域「固定型アルトラブ(ALTRV)」と記している。

 本島西の「MOOSE」の内側は、台湾方面から米西海岸などに向かう民間機が通る「R583」という航路があった。これは台湾方面から本島の北東にある沖永良部島付近へと一直線で向かい、太平洋に抜けるコースだった。

 だが臨時訓練空域の新設から約1カ月後の16年1月7日、同経路は台湾管制と日本管制の境界から日本側の区域で廃止された。国交省は廃止と併せ、同じコースに「Z31」という別名の経路を新設した。

 だが「Z31」は訓練が実施されていないとみられる夜間にのみ民間機の運航を認めている。それ以外の時間で「MOOSE」が「有効」になっている場合、民間機は沖縄本島付近を通って迂回する必要が生じた。

 従来の航路を廃止した理由について国交省は「より効率的な交通流形成のため」とし、臨時訓練空域の新設には触れなかった。

 航空関係者はこの措置について「那覇空港を発着する国内線に新たな支障が出たとは聞いていない」とした上で「主に国際線で影響が出ているのでは」との見方を示した。(島袋良太)