「はいたいコラム」 信用を貯める時代


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 島んちゅの皆さん、はいたい~!新年度です。新しいスタートを迎える人も多いでしょう。私も15年前の春、石川県のテレビ局を辞めて、東京へやって来ました。兵庫県生まれの高知県育ちで大学も大阪だった私は、東京には何のつてもありません。ですが、放送業界で仕事をするならやはり東京だろうと、10年勤めた局を辞めて引っ越したのです。無知って強いですね。

 最初に住んだのは品川でした。たった1人の友達と不動産屋に行き、部屋の契約を決めた数日後、何と審査に落ちたと入居を断られたのです。予想もしなかった事態に私は驚きました。10年も働いてきたので貯金はありました。家賃を支払う能力はあるのに、会社を辞めてフリーになったという肩書の曖昧さが、大家さんの信頼を欠いたのです。

 自分では「フリーアナウンサー」になったつもりでしたが、出演番組という、いわゆる勤め先が決まっていない以上、世間的には「無職」とみなされるのでした。ショックでした。余りのショックに泣いたのを覚えています。無知って悲しいですね。

 その後、どうにか別のアパートには入居できましたが、支払えますと言っても聞き入れてもらえない、信用できないと突き放されたことは、意気揚々とやって来た東京という街に拒絶されたと感じるほど大きな出来事でした。

 あれから15年。私は東京に住み続け、強くたくましい都会の人になりました。小説家の村上春樹さんのエッセーに「Living well is the best revenge.」という英語のフレーズが出てきます。「優雅な暮らしは最大の復讐(ふくしゅう)である」と訳します。村上ファンとして、座右の銘にしている生き方です。あらゆる場面に使えそうですよね。

 SNSで性格や物の考え方がバレる現代は、お金を稼ぐより「信用を稼ぐ」方が力を持つ時代です。クラウドファンディングの資金調達や、イベントの集客もしかり。目的や考えを発信し、賛同する人が100人、千人と集まれば、一人一人の投資額がわずかでも総額は相当になります。広告宣伝費をかけずに人と資金が集まる時代なのです。

 お金がある人と、信用がある人。考えれば確かに後者の方が人間としても好ましいと思いませんか。みんながお金を貯(た)めるよりも「信用貯蓄」を頑張れば、すてきな世の中になるに違いありません。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)