「変な顔」「怖い」「怪獣みたい」。幼稚園の入園式翌日、人工呼吸器を付けた湯地駿羽君を見たほかの子たちはこう言った。
主任教諭の西原美津江さんは「そんな言葉を言っちゃいけない」と叱るのではなく、駿羽君がどんな子なのかを子どもたちにちゃんと伝えないといけないと考えた。
駿羽君の母三代子さんにどんな思いで駿羽君を育ててきたのか、みんなと一緒に遊べることが駿羽君にとってどれだけ幸せなことなのか-を話してもらった。涙を流して聞いている子もいた。「友達がいることが一番の幸せだよね」。そうクラスで話し合った。
「おしっこはどうするの?」「触っても大丈夫?」子どもたちは駿羽君に自然に近づいてきて車いすや機械を触り、理解を深めていった。そして一緒に楽しむための工夫をするようになっていった。子どもたちの姿に周りの大人も触発された。運動会やプール、生活発表会、園庭での遊び。駿羽君を特別扱いするのではなく、どうすれば一緒にできるのかという視点で物事が進んでいった。
西原さんは「子どもの世界は残酷だけど素晴らしい。理解ができれば自然な関わりができる。それが大人に伝わり、地域に伝わっていく」と話す。
2011年12月、高良小学校体育館で行われた高良幼稚園の生活発表会。駿羽君はみんなと一緒に舞台の上でエイサーや劇を披露した。駿羽君の車いすを舞台に上げたり、下ろしたりしたのは西原さんの呼び掛けに応じて自主的に参加した小学校の教諭たちだった。
小学校入学まで4カ月。教諭らは「幼稚園でやってこられた。人的環境があれば小学校もできないことはない」と話した。
幼稚園の1年間はその後、駿羽君が地域の学校に通う上での方向性を決めた1年だった。
(玉城江梨子)