社会

世界遺産延期識者談話〈上〉 基地と自然 共存できない 桜井国俊氏(沖縄大学名誉教授)

 桜井 国俊氏

 勧告内容(発表分)は抽象的な表現が多く、IUCNがあえて問題点の明確な指摘を避けたような印象を受けた。環境省は米軍北部訓練場跡地の編入手順の不備などが「登録延期」を招く主な要因だったと解釈するが、やんばるについては重要保護区域の周辺にあってしかるべき緩衝地帯がない上、推薦地には日本の管理権限が及ばない米軍基地が隣接する。推薦内容が「貴重な自然環境の永続的保全」という世界自然遺産の基本理念に沿わないのは明らかだ。

 そもそも在沖米軍が作成した「自然資源・文化資源統合管理計画」や沖縄防衛局の自主アセスにも、やんばるの森の中でも特に北部訓練場内に天然記念物ノグチゲラが多く営巣している事実などが明記されている。保護の重要性が高い場所が推薦地から除外される点は非常に問題だ。また、訓練場内に広がる極めて豊かな自然環境を把握しながらも、米軍に対し土地の使用履歴の開示や環境保全協定の締結などの協力を一切求めなかった政府の姿勢からは、登録への真剣度が伝わってこなかった。IUCNは4島24地域に飛び地する推薦地は「資産の分断」を招き、生態学的な持続可能性に重大な懸念があると指摘した。政府が当該地域の遺産価値の一つに挙げていた「生態系」の適性を認めなかった。IUCNは明言を避けたが、推薦地は本来なら海と森と川とが連なり一連の自然環境を織りなすが、米軍基地の存在により〝分断〟され、いびつな推薦形態を余儀なくされたやんばる地域を問題視したはずだ。

 ユネスコは近年、加盟国の政治圧力で世界遺産の登録可否を覆した事例がある。奄美・琉球の遺産登録は過重な基地負担の免罪符でもあるため、政府は引き続きユネスコに全力で働き掛けるだろう。政治的思惑が大いに計られれば、今夏の登録可能性はまだ残る。ただ、世界自然遺産の原点に立ち返れば、軍事基地と自然保護の共存はあり得ない。今こそ真の世界自然遺産の実現を目指すべきだ。(談)

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 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録について、ユネスコの諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)が「登録延期」を勧告したことで政府や県が目指していた今夏の登録は厳しい情勢となった。沖縄の環境問題に精通する識者らに推薦地を巡る問題について見解を聞いた。



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