「はいたいコラム」 旬バリの棚田で水を売る


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 島んちゅのみなさん、はいた~い!連休はいかがお過ごしでしたか。わたしはインドネシア・バリ島へ棚田(たなだ)を見に行ってきました。ジャティルイ村は標高700メートルの山の麓から眼下の谷底まで視界に入るすべてが棚田に覆われ、世界遺産に登録されています。棚田は英語でRice Terraces。米を主食としない国の人々にとってアジアの水田はエキゾチックで美しい景観とあって、ヨーロッパやロシアの観光客が多く見られました。トレッキングルートを歩いてみると、張り巡らされた用水に勢いよく水が流れ、急傾斜の棚田を潤す技術を物語ります。この灌漑(かんがい)システムはなんと9世紀に始まり、水利組合は、神と人と自然の調和を重んじるヒンドゥー教のもと、水の分配や農繁期の互助を取りまとめます。また、観光地ウブドの近くには別のにぎわいを見せるライステラスがあります。棚田の頂きに設置された絶景ブランコは、バリスイングと呼ばれ、インスタグラマーの間でブームとなっているのです。値段は10万ルピア(約800円)。安全ベルトを取り付けてブランコに乗ると、眼下の棚田に放り出されるようなスリルと、アルプスの少女ハイジ気分を味わいました。

 バリの棚田はいずれも、眺めて終わりの観光ではなく、トレッキングルートを整備し、ブランコを設置して、遊園地さながらの工夫を凝らしていました。歩いて動き回ればお腹が空きます。喉が渇けば飲み物も売れるでしょう。まず旅行客を徹底して遊ばせることで、次なる需要を喚起する。いわば、北風より“太陽の商法”です。実は、棚田を歩く途中で2回寄付を求められました。保全のためには理解できますが、2回目に寄付した後、もっとくれと迫られたときは、正直あまりいい気はしませんでした。しかしその後、頂上付近で売っていた冷たい水をわたしは率先して買い、ゴクゴク飲んで満足しました。32度の炎天下で手に入れた水は救いですから、例え割高でも喜んで払います。どうせならあの寄付の人も冷たい水を売ってくれたら気持ちよかったのになと思いました。同じ金額でも喜びの代償に払った取引は、双方を幸福にしますが、一方向の関係は長続きしません。自分は相手に何を与えられるか。ビジネスでも人間関係でも大切にしたいことですよね。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

・・・・・・・・・・・・・・・・

小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)