対馬丸事件「忘れないで」 教え子失った糸数さん、記念館に100万寄付


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
対馬丸記念館の高良政勝理事長(右)に目録を手渡す糸数裕子さん=9日、那覇市若狭の対馬丸記念館

 那覇国民学校高等科の引率教師として対馬丸に乗船した糸数裕子(みつこ)さん(93)=那覇市=が9日、沖縄県那覇市の対馬丸記念館に100万円を寄付した。糸数さんは戦後、語り部として多くの人々に対馬丸事件の経験を語り継いできた。今回の寄付に対し「若い世代に対馬丸事件を忘れてほしくない。そのためにもぜひ記念館を維持しほしい」と強調した。

 1944年8月、疎開の学童らを乗せた対馬丸は、米軍潜水艦の魚雷攻撃で沈没した。学童784人を含む1482人が犠牲となり、糸数さんは教え子13人を失った。「国策だからと当時は疎開を勧めた。しかし亡くなった生徒やその家族に申し訳なく、33回忌が終わるまで、那覇の街を怖くて歩けなかった」。当時を振り返り、事件の生存者として苦しい思いを抱き続けてきたことを明かした。

 2014年6月に天皇皇后両陛下が同記念館を訪れた際は「遺族に合わせる顔がない」と懇談の場への出席を辞退した。だが自身の気持ちを伝えようと、白い糸で三つのレースの装飾品を編み、両陛下が利用する同記念館の休憩場や対馬丸の学童慰霊塔「小桜の塔」の献花台に置いた。

 同記念館の高良政勝理事長(78)は「多額の寄付に感謝したい。記念館を維持し、対馬丸事件や戦争の事実をより多くの人に知ってもらいたい」と述べた。