「天国にいる沖縄の母さん、私を娘にしてくれてありがとう」。米ロサンゼルスを拠点にバンド「KOLAJ」のボーカル、シンガーソングライターとして活動する金城クリスタル・ジョイ(米国名=ティーサ・ヒューストン)さん(30)は、沖縄で2度養子となったが、その事実を知らぬまま米国で育った。リアルな音楽を追い求めるアーティストになった今、これまで目を背けてきた自身のルーツと向き合うため、27年ぶりに沖縄を訪れた。
クリスタルさんは、フィリピン人の両親のもと名古屋市に生まれたが、両親が違法労働、不法滞在者だったことなど複雑な事情が重なり、生後間もなく沖縄とフィリピンの混血である金城グロリアさん(享年57)に引き取られた。
生後5カ月までグロリアさんと那覇市内で暮らしたが、実母やその知人から脅迫や執拗な嫌がらせを受けたため、娘の安全を最優先したグロリアさんが在沖米国人夫婦に養子へ出すことを決意。クリスタルさんは米国人となり、2歳の時、米本国へ渡った。
「育ての両親からは、実母は米軍人にレイプされた沖縄の女性とだけ聞かされていた。そんな生い立ちは知りたくないし、真実を調べようとも思わなかった」と思春期を振り返る。
転機は2015年、プロのアーティストとして駆け出し、自身のアイデンティティーを見つめ直す必要性を感じた時だった。
「グロリア・キンジョウ」という母の名前だけを頼りに、フィリピン大使館などで情報を収集。沖縄に住むグロリアさんの居場所と連絡先を探し当て、会員制交流サイト(SNS)で25年ぶりに連絡がつき、真実を知った。
再会を誓い合っていた2人。しかし、昨年7月、グロリアさんが病死し、願いはかなわなかった。
クリスタルさんは、せめてグロリアさんの墓を抱きしめたいとの思いで来県を決意。グロリアさんの兄やめいらとゆかりの地を訪れたり、生前のグロリアさんについて知人に聞いて回ったりした。血はつながっていないのに歌や踊りが得意で正義感が強い性格など、知れば知るほど多くの共通点を見つけ「魂のつながり」を感じたという。
「もしあの時、沖縄の母が実母から私を取り上げていなかったら、麻薬や売春に手を出していたかもしれない」。危険を顧みず他人の子どもを引き取った“ウチナーンチュの女性”の勇敢さと深い愛情に心を打たれたという。
沖縄の母は私の天使。母が生きたこの島を、第二の故郷として大事にしていきたい―。初めて自身の過去と向き合ったクリスタルさんは「より等身大の自分を歌で表現していきたい」と活動意欲を新たにした。
(当銘千絵)
英文へ→Twice-adopted U.S. singer-songwriter returns to Okinawa after 27 years