<沖縄から育む市民力>1 琉球新報×キリ学大 学び深め社会参加


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◆「知りたい情報」発信/実践授業 記事で紹介

 沖縄は今年「選挙イヤー」。たくさんの市町村で市町村長選や議会選挙があり、県知事選も行われます。全国レベルでは憲法改正の国民投票もあるかもしれません。しかし…

 選挙権を得て大人になるって何だろう。「社会参加」「政治参加」というけれど、どうすればいいのかよく分からない。私一人が動いても何も変わらないんじゃないかな−。そんな疑問や感覚を持っている人はたくさんいます。そんな「よく分からない」を出発点に、学びを深めて「自分も社会に参加できるんだ」「社会に関わってみたい」と気持ちが高まる授業を先生たちに実践してもらい、それらを記事で紹介していきます。

 参加協力してくれるのは、小学校から大学まで教育現場で活躍する教員の皆さん。例えば一人の高校教員は今月、世界の子どもたちの教育環境を考える授業を皮切りに、年間を通してさまざまな授業を展開する予定です。新指導要領にも掲げられた「社会に開かれた教育」の実践の場ともなります。

 琉球新報はこれらの授業に使える情報、教員や子どもたちが知りたい情報を記事を通して発信します。広く教員の皆さんには授業作りの参考になり、読者の皆さんには教室で子どもたちと一緒に学ぶように、沖縄から「市民力」を育む機会を提供していきます。

◆「参加する力」重要/上智大の田中教授 講演で強調

18歳選挙権や社会参加について語る上智大学の田中治彦教授=西原町の沖縄キリスト教学院大学

 琉球新報と沖縄キリスト教学院大学の共同企画「沖縄から育む市民力」では3月、キックオフイベントとして「選挙、憲法、市民教育 はじめの一歩」を同大で開いた。18歳選挙権や市民教育に詳しい上智大学総合人間科学部の田中治彦教授を講師に社会参加を考える講演を開き、ワークショップを体験した。多様な教材研究に取り組む教員など約10人が参加した。

 現在の学校教育では、社会の仕組みを学び、参加する力を付ける「公民」が“暗記科目”になっていると田中教授は指摘した。学食の味や値段に不満を言っても、改善のために動こうとはしない大学生の例を示して「現実の課題を解決する態度やスキルが育っていない。課題解決へ参加していいということさえ分かっていない」と現実を報告し、知識、スキル、態度のバランスが取れた市民教育の必要性を訴えた。

 参加する姿勢を身に付けるには「(『何もできない』という)無力感ではなく(『自分にはできる』という)効力感を高めるしかない」と力を込めた。そのためには「大人が自分の意見を聞いてくれたという経験を積み重ねる必要がある」と話し、教室や地域での日常の重要性を強調した。

 また市民教育の視点として、社会の課題を自分の問題に引き付けること、自らの意見を表明すると同時に他者の意見を聞くこと、特に声が小さい人の意見を引き出す重要性などを指摘した。社会とのつながりを実感するには、家族や学校といった身の回りの小さな社会から地域、国と広げていくことを指摘し「いきなり『憲法』ではなく、日常の中から考えていく必要がある」と話した。

◆子の主体性 育もう/教諭らワークショップ体験

ワークショップを体験し、参加の仕組みや意義について意見を交わす参加者ら=西原町の沖縄キリスト教学院大学

 琉球新報と沖縄キリスト教学院大学の共同企画「沖縄から育む市民力」のキックオフイベント「選挙、憲法、市民教育 はじめの一歩」では、市民教育を実践するいくつかのワークショップを体験した。上智大学総合人間科学部教育学科が発行した「18歳選挙権と市民教育ハンドブック」をテキストに使用した。

 「参加のはしご」というワークでは、参加という言葉で表現される活動の「参加度」を整理した。「参加度」には、単にその場に居合わせるだけで意思決定には加われない状態から、主体的に物事を動かす状態まで、さまざまな段階があることをはしごの模式図で確認。「全てを子どもが企画し、催しを実行した」「子どもが出した意見から大人が内容を決めて子どもに指示を出し、催しを開いた」など具体例が書かれたカードを使い、それぞれどの段階に当たるかを考えた。

 高校の社会科教諭の浅沼慎吾さん(31)は自身の経験を振り返りながら「学校現場では、生徒は参加しているつもりだが意見は聞いてもらえていない場面がある」。翔南小学校教諭の屋良真弓さん(36)は「自分で考え、判断して動く子どもを育てたい。日々の学級づくりから、子どもが『言った』『通った』『変わった』と実感するステップを重ねたい」と活用への手応えをつかんでいた。