祭祀と生活 克明に 復帰直後の宮古を記録 上井幸子さん写真集


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上井幸子さん(六花出版提供)

 1970年代、沖縄県の宮古島や大神島に足しげく通い、復帰直後の人々の生活を写した写真家、故・上井幸子さんの写真集「太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀(さいし)」が25日、出版された。写真家として、全国的にはほとんど名が知られていない上井さんだが、残したフィルムを元に支援者らが編集し、出版が決まった。宮古島の島尻、狩俣地域で行われ、現在は途絶えた秘祭「祖神祭(ウヤガン、ウヤーン)」をはじめ、女性ならではの視点で、生活の中に息づく祭祀の様子が克明に切り取られている。

 上井さんは1934年静岡県浜松市生まれ。72~83年にかけて宮古島を訪れ、島の様子を写真に収めたが、2011年に77歳で亡くなった。写真集は、写真家の比嘉豊光さんが遺品から預かったフィルムを編集し、上井さんと親交のあった女性史研究家のもろさわようこさんが文を添えた。

 宮古島の島尻、狩俣、大神島、伊良部島の佐良浜の4地域の祭祀を中心に、人々の暮らし、子どもたちの写真など約200点が収められている。

上井幸子写真集「太古の系譜」

 特に、禁忌を固く守る祭祀と言われる祖神祭では、島尻、狩俣地域で神役の女性たちが祭祀場の中にこもり、祈りを捧げる様子なども撮影しており、上井さんが島の人と信頼関係を構築していたことがうかがえる。

 宮古島市史編さん室によると、祖神祭は大神島、島尻、狩俣の3カ所で行われていたが、島尻、狩俣は90年代後半から2000年代前半に後継者不足によって途絶えた。大神島では続いているが、神役の女性が減り、祭祀の中身が変わってしまった部分もある。

 市史編さん委員の本永清さんは、上井さんの残した写真について「とても貴重だ。祭祀の神秘性だけを切り取るのではなく、村落生活と祭祀生活が重なり合いながら存在していた当時の様子がよく分かる」と評価した。

 比嘉豊光さんは「最初に見たときは衝撃を受けた。男性が入れない場所にも入り、女性たちと会話をしながら丹念にくまなく撮っている。空気感を伝えた作品だ」と語った。

 写真集は2500円(税別)。県内の書店で販売している。