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そろばん教育 情熱40年 5月他界の岐浦さん(高知出身) 教え子、教室引き継ぐ

そろばん教室の教え子と交流する岐浦政子さん(中央)=2010年10月(森岡紀子さん提供)

 5月中旬、沖縄でそろばん教育に情熱を注いだ1人の女性が亡くなった。高知県出身の岐浦(きうら)政子さん(享年81)。夫の転勤で沖縄に移住し、40年前、那覇市具志にそろばん教室を開いた。家族が高知に戻った後も単身で沖縄にとどまり、他界する直前まで教壇に立ち続けた。教え子が親しみを込めて言う。「優しくてお母さんみたいな存在だった」

 岐浦さんは1978年の春、家族5人で沖縄に移住した。元小学校教員で、子どももそろばんも好きだった。7月、念願の具志珠算教室を開いた。地元の高良小学校の児童を中心に、ピーク時には100人近い小中学生が在籍した。

 転勤や進学で家族が沖縄を離れた後も、岐浦さんは1人沖縄に残った。長女の森岡紀子さん(55)=高知市=が「帰ってきたら?」と勧めると、「沖縄の子がすごくかわいくてね…。最後まで絶対、続けたい」。単身生活は四半世紀になったという。

 80歳を目前にしても県外の研修に出向き、塾便りはパソコンで作った。今年3月4日には優良生徒表彰式に参加し、5日も教壇に立った。肺炎で入院したのはその翌日。「元気になったらそろばんやります」。そう言い残したまま、5月18日に帰らぬ人となった。

 200人近くが焼香に訪れた。教室にはそろばんと花が供えられ、子どもたちが「いままでありがとうございます」「天国でもおうえんしていてください」などとメッセージを添えた。


岐浦政子さんの教え子で、具志珠算教室を引き継いだ上原政章さん=那覇市具志

 教室は、9年前から助手を務めてきた上原政章さん(41)=那覇市=が後を継いだ。上原さん自身、小学校の6年間、岐浦さんにそろばんを習った。「夏休みには暗算の勝負があって、勝ったらお小遣いをくれた。楽しかった」。助手のころはよく注意された。「そろばんが楽しくできるように、子どもには優しく言ってね、と」。優しさの中に厳しさもあった。

 岐浦さんの教え子はおよそ2千人に上り、2世代にわたる。上原さんが実感を込める。「そろばんを通した地域や世代間のつながり。岐浦先生が40年間でつくり上げたものだと思う」

 岐浦さんは手帳に「遺言」を書き留めていた。高良小PTAに10万円を寄付してほしい、と。今月23日、森岡さんが高良小を訪ね、野田尚美PTA会長(38)に浄財を手渡した。

 卒業後も教え子と交流を続けた岐浦さん。遺品の中には、40年分の生徒の名簿もあった。森岡さんは「生徒さんは母にとって、大切な家族だったのでしょう。出会いと人に恵まれ、すごく幸せだったと思う」。地域と人々の記憶の中で「岐浦先生」は生き続ける。
 (真崎裕史)