米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う新基地建設阻止を訴えてきた翁長雄志知事が8日、辺野古埋め立て承認の撤回を前に、任期途中で死去した。辺野古移設反対の世論を背景に保革を超えた「オール沖縄」の枠組みを構築した翁長氏は、命を削りながら最後まで沖縄の民意の象徴として公約を貫いた。現職の死去に伴う県知事選が55日以内に実施されることとなり、翁長氏の2期目出馬を前提としてきた県政与党は大きな喪失感を抱えながら、新基地建設反対の県政を継承する候補者の擁立を早急に迫られる。
翁長氏の新基地建設阻止の取り組みを支えてきた「辺野古に新基地を造らせないオール沖縄会議」は、沖縄防衛局による土砂投入が17日に迫るのを前に、辺野古新基地建設断念を求める県民大会を11日に那覇市の奥武山公園陸上競技場で開く。埋め立て承認の撤回について翁長知事自身で県民に報告してもらおうと10分間のあいさつを要請し、翁長知事も出席の意向を伝えていた。だが、7月27日の撤回表明会見以降、体調が急変し、県民大会参加はかなわなくなった。
◇「腹八分」のかじ取り
翁長氏は2014年11月の県知事選知事選で36万820票を獲得し、当時現職の仲井真弘多氏に9万9744票の差をつけた。知事選直後の14年12月の衆院選でもオール沖縄の候補者が選挙区を独占するなど、国政で安倍政権一強が強まるのに対し、沖縄では保革の枠を超えた新しい政治勢力として「オール沖縄」が席巻した。
だが、新基地建設を巡る国との法廷闘争など政府との対立が激しくなるのに伴い、オール沖縄体制のほころびも見られるようになってきた。
今年1月の名護市長選では辺野古新基地建設反対で翁長氏と歩調を合わせてきた現職の稲嶺進氏が落選し、大きな痛手となった。辺野古埋め立ての是非を問う県民投票の実施を巡る見解の相違から、金秀グループの呉屋守将代表がオール沖縄会議の共同代表を辞任するなどの動きもあった。
辺野古問題以外では支持政党や支持者の間でそれぞれの相違を抱える勢力の舵取りに難渋しながら、翁長知事は「腹八分、腹六分で、皆で心を一つにしたい」と繰り返していた。
翁長知事が築いた、保革を超えた枠組みである「オール沖縄」体制への影響について与党幹部の一人は「うろたえる必要はない。最良の後継者を選ぶだけで、県民には団結が求められている」と語った。
一方、別の幹部は「翁長知事の出馬以外想定していなかった。今後、『オール沖縄』の体制がどうなるか未知数で、人選を通じて与党の結束が試されている」と語った。
◇影響を警戒
公職選挙法の規定により、翁長氏死去に伴う知事選は9月下旬の日曜日が投開票日となる見込みとなった。急転直下の動きに対し、県政奪還を狙う政権与党の自民党からは、同月20日ごろに党総裁選が予定されているため「当初の日程(11月18日投開票)ほど、知事選に党を挙げた総力戦で臨みづらくなる」(党関係者)と影響を警戒する声が出ている。
国政選挙並みの強力なバックアップで宜野湾や名護の市長選を勝ち取り、「オール沖縄」を掲げる翁長氏の支持基盤を切り崩してきた自民にとって、知事選に関する翁長氏の動向は最大の関心事だった。自民党国会議員の一人は、翁長氏の逝去について「“弔い選挙”になることがどう影響するかは見通せない」と語った。
政府は今後も辺野古移設を進める方針を継続する構えだ。「今後、副知事は県政与党側から『どうしても撤回をやれ』と言われるだろう。まだ、どういう展開になるのか直ちには読めない。だが、翁長知事と同じようにやるというのなら、撤回の効力を失わせる訴訟など準備している手段に打って出る姿勢に変わりはない」(防衛省幹部)
ただ、9月に知事選が実施されることとなり、工事が与える影響を慎重に見極めつつ対応するとみられ、翁長氏が表明した辺野古埋め立て承認の撤回への対抗措置も再検討を迫られることになりそうだ。ある政府関係者は、翁長氏が辺野古移設反対を最後まで貫き通したことに触れ「国が工事を強行しているという姿勢は、より印象強く残ることになるだろう」と見通した。 (与那嶺松一郎、吉田健一、當山幸都)